借りパクは犯罪なのか?
友人が(または自分が)金品を借りて返してこない(返さない)ことがあります。いわゆる「借りパク」です。この借りパクは犯罪になるのでしょうか、また法律上どのような問題があるのでしょうか。
詐欺罪になるのか
まず思いあたるのは詐欺罪(刑法246条)です。詐欺罪は、相手を騙して金品や財産上の利益を受け取る場合に成立します。つまり、返す意思がないのにお金を借りる(ていでお金を受け取る)、代金を払う意思がないのにレストランで食事を注文する、というのが典型です。
ちなみに、借りる時点で返す考えはあり、後に返す考えがなくなってしまった場合は詐欺罪になりません。例えば、レストランに入って食事を注文した後で財布を忘れたことに気づいたので、トイレや電話のふりをして店から逃げた場合は詐欺罪になりません。ただし、代金の精算の際に「財布を忘れたので自宅まで取りに帰ってきます」といって店員を騙してそのまま逃げる場合は詐欺罪になります(ならないとする考え方もあります)。
いずれも悪さは同じような気がしますが、詐欺罪という犯罪が成立するかどうかは厳格に判断されますので、このような結論にならざるを得ないのです。
しかし、よく考えると、最初から代金を踏み倒そうとして食事を頼む場合(詐欺罪になる)と、食事を頼んだ後に踏み倒そうと考えた場合(詐欺罪にならない)とを比べると、その違いはその人の内心でしかありません。
内心をどのように判断するのか
人の内心(気持ち)は誰にも分からないものですが、そのようなものの違いで詐欺罪となるかどうかの分かれ目が生じるわけです。では、どのようにして詐欺かどうかを区別するのか?これは客観的な事実によって区別するしかありません。先ほどの例の財布を持っていないけど持っているものと勘違いし、代金を払うつもりで食事を注文する場合について考えると、最も重要な事実は、客観的な支払能力があるかどうかでしょう。つまり、全くの無一文の人であればこのような弁解をしたところで詐欺罪となりやすいでしょうが、自宅や職場などに本当に財布を忘れてきた人はそうではないでしょう。
客観的な事実によって人の内心を推し量るしか判断することはできません。
結局、借りパクは詐欺罪になるのか
ずいぶん脱線しましたが、借りパクの場合はどうでしょうか。先ほどの例のとおり、借りパクが詐欺罪になるかどうかは、借りる時点で返す意思があるかないかによって決まります。そしてその意思は客観的な事実から判断されることになります。例えば、借りた直後にその品物を中古品として売っているような事実があれば返す意思がなかったとして詐欺罪になりやすいでしょう。
しかし、借りた品物を自分で使用している場合は、詐欺罪かどうかの判断は極めて難しいといえます。
詐欺罪の場合の時効
ところで、もし詐欺罪が成立する場合、いわゆる時効は何年でしょうか。詐欺罪は刑法で10年以下の懲役となっています(刑法246条)。長期15年未満の懲役になる犯罪は、時効は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。
したがって、詐欺行為をしてから7年以内に起訴されなければ、詐欺罪で処罰されることはありません。
詐欺罪でなくとも返還する義務がある
借りパクが仮に詐欺罪とならない場合でも、民事上、貸主に返還すべき義務を負うことは当然です。民法上、無償の貸し借りは「使用貸借契約」という契約が成立していることになります。この場合、返還期限の約束があればその期限、なくとも貸し借りの目的にしたがって、その目的達成のために十分な期間が過ぎれば返還義務が発生します。いずれにしても永久に借り続ける使用貸借契約はありませんので、借りた物を返す義務は必ず発生することになります。
レンタルの場合はどうか
代金を払ってレンタルしている場合は、民事上「賃貸借契約」といいます。返却の際の問題は、延滞料の扱いです。延滞期間が長いと大きな金額になってしまいます。
もっとも、レンタル事業者の約款で上限の定めがあればそれに従うことになりますし、それがない場合やその上限額でもかなり大きな額になる場合があります。
しかし、消費者契約法9条によると、過大な違約金の定めがある場合でも、事業者に生じる平均的な損害を上回る部分については無効になる旨が規定されています。
また、民法174条5号(※現行法)によると、レンタル料は1年経過すれば時効で消滅すると規定されています。ただし、消滅時効は、時効援用の意思表示、つまり「消滅時効を援用します」と相手に通知する必要があり、それがない限り支払義務は残り続けることになります。