秋ドラマを総活!『陸王』はドラマづくり熟練の技が光った

晴れ晴れと最終回を終えた作品が数多かった秋ドラマ。シリーズドラマと新ドラマ、両方の良さを気持ちよく楽しめた今シーズンを振り返ります。

やっぱり観てしまうシリーズドラマ、新しい挑戦に感動した新ドラマ、今シーズンはどちらも素晴らしく楽しめました。
 

「やっぱりな」と「そうきたか」で盛り上がるシリーズドラマ

忖度大好き、意外にケセラセラ、絢爛豪華な男性医師軍団が楽しい『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日系)、シリーズ5作目の最終回は、そんな彼らの大門未知子愛があふれました。
 

医療チームのことばに救われる『コウノドリ』(TBS系)は、こたえのない命の問題に挑み続ける2シーズン目の名作、season17を迎えた『科捜研の女』(テレビ朝日系)は、科学捜査の進化に感動しながら、音楽で物語の進行度を確認できるザ・マリコショー、容赦ない事件に挑む特命係の手腕が生きる『相棒』(テレビ朝日系)はseason16、医療ドラマにも刑事ドラマにもシリーズ化ならではの「おもしろさ」を改めて感じました。
 

意欲的な挑戦に期待が膨らむ、新しいドラマ

視聴率という点ではシリーズドラマが強みを見せますが、新しいドラマも負けていません。意欲的な内容や見せ方が高評価の力作が並びました。
 

視聴者のハードボイルド遺伝子に火をつけた『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)、新しい学校づくりにリアルに取り組んだ『先に生まれただけの僕』(日本テレビ系)、目を背けない勇気に泣けた問題作『明日の約束』(フジテレビ系)、『ひよっこ』(NHK系)の脚本家・岡田惠和が描く風景が、陽だまりのようにやさしい『ユニバーサル広告社』(テレビ東京系)、満足度の高い作品が多かったと言えます。


また、新時代のアクションドラマをつくり続ける金城一紀の『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)、ダントツの伏線多面体に興奮した宮藤官九郎の『監獄のお姫様』(TBS系)もオリジナリティにあふれ、新鮮でした。
 

『陸王』は視聴率20.5%を記録。何が視聴者を引き付けた?

走る

秋ドラマのなかでも、初めて見る「ドキドキ」と、池井戸潤原作×TBSの日曜劇場の経験値からくる「ワクワク」が融合した『陸王』(TBS系)、最終回では視聴率20.5%を記録、今も私たちの記憶に清々しく残ります。何が、私たちを引きつけたのでしょう。
 

こはぜ屋の粋と心意気

足袋に半纏に木造建築、ピカピカの床とミシン、光が射す廊下、日本の粋が生きるこはぜ屋には、なつかしさを感じます。販売している劇中着用の武州正藍染の半纏は2017年1227日現在入荷待ちの人気、その半纏を着てFelixに挑む、豊橋国際マラソンの地に立つ、その心意気にもしびれました。
 

演出の粋と遊び心

ランナーのユニフォームが話題だった『陸王』、マラソン大会では、帝国重工(『下町ロケット』)、ゴーンバンク(『小さな巨人』)やアイチ自動車(『READERS』リーダーズ』の企業名が並び、SNSもにぎわいました。遊び心に完成度、美術さんの心意気も素敵です。
 

若い世代の風が吹いた

竹内涼真、山﨑賢人、風間俊介、馬場徹、若い世代の演技が頼もしかった陸王。
 

豊橋国際マラソンの試合前、本作最強のヒール小原賢治(ピエール瀧)と対峙する陸上選手・茂木裕人、強い想いを爆発させるのではなく、にじませる、演じた竹内涼真のうまさが光りました。台詞のリズムと間、強いだけではい目力、彼の信念が、正念場続きの人生に屈折し自棄になり、それでも前に進む茂木選手を見事に映し、日本中は歓喜しました。
 

こはぜ屋の長男・宮沢大地(山崎賢人)の成長が鮮明だった本作、メトロ電業の最終面接には、陸王づくりの経験に裏打ちされた力みのないことばで臨み、未来を担う20代の青年の燦燦たる姿に、日本中で笑顔がこぼれました。自然体で演じてしまう、山﨑賢人の可能性に感服です。
 

埼玉中央銀行の大橋浩、いけ好かない銀行員だったはずなのに、その印象をガラリと変えた馬場徹の演技力も作品を引き締めました。舞台で培った経験が開花した瞬間を目撃した気がします。銀行員の立場と大橋個人の立場を提示する賢明とクール、切れのいいセリフは彼の努力の賜物です。
 

こはぜ屋に伴走し続けた風間俊介演じる坂本太郎、仕事に対する一貫した姿勢は、正義と仕事への愛を忘れることはありません。そんな若い世代の踏ん張りに敬意を表すのが、役所広司演じる主人公の宮沢紘一、若い世代へのエールは、私たちの想いそのものです。
 

豊かな「声」が作品を彩る

高ぶる感情が見せ場となる日曜劇場。その感情を暴走させず、しっかり届ける要素のひとつに、登場人物たちの「声」があります。宮沢紘一のみんなをフワッと力強く包み込む声、茂木選手の清新な声、大橋浩の沈着な声、こはぜ屋の大番頭・ゲンさん(志賀廣太郎)の渋い声、ダイワ食品陸上部監督(音尾琢真)の闘う声、宮本大地の真っすぐな声、大地の妹・茜(上白石萌音)の祈るような澄んだ声、「ずっと聴いていたい」声が『陸王』への親近感を生んだのでしょう。
 

晴れ晴れと終わった作品が多かった今シーズンのドラマ、寂しさはありますが、満たされた気持ちのまま2018年を迎えられそうです。

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