日曜日の夜、拳を握りながら「よし!」と自分を奮い立たせるドラマ「陸王」。テレビの前で、こはぜ屋がんばれ、茂木選手がんばれと応援しながら、作品からいくつものことを学び、エールをもらっている気がします。
学ぶべきは闘い方
役所広司演じる主人公、4代目社長宮沢紘一とこはぜ屋の職人たちが、自らを奮い立たせ闘い続ける姿に心動かされる『陸王』。しかし、さらに見るべきは、闘い方。巨大企業アトランティスへの挑み方は真正面から、姑息なまねは一切しません。本気で怒り、本気で意見する、忖度なしの力強さに自分を重ねて、「よし」と思ってしまいます。
埼玉中央銀行に対しても、スタンスは同じ。怒りをぶつけながらも、彼らの尽力には、心から感謝する。感情をむき出しにしながら、うそのない宮沢社長の生き方は実に人間らしいのです。相手をやりこめたスカッと感は一時的で、胸を張って“すがすがしく闘う意味”を教えてくれる物語です。
伝わってくるドラマへの愛
「テレビがおもしろくなくなった」「作品づくりへの本気度が低下している」「テレビが衰退している」といった声は少なくありません。しかし『陸王』の現場は熱い。
マラソン大会の観客役をはじめエキストラの人数が想像を超えていることは周知のとおり。「ニューイヤー駅伝」には7000人が参加しています。交通費と時間を使って足を運ぶエキストラたちのドラマへの想い、大人数をサポートするスタッフのドラマへの想い、これらの「愛」がなければ作品は成立しません。ホームページにあるエキストラ写真館には笑顔に満ちたエキストラの姿ばかりで、現場の雰囲気が伝わってきます。そんな温かさも、作品に映ります。
いいドラマをつくるためには、手間暇をおしまない。ものづくりを描く物語において、作品をていねいに描くことは生命線。観ているこちらにも、こうした想いが伝わります。
多彩な役者が本気で見せる
出演者に寄ったカメラワーク、大きすぎる表情といった「日曜劇場独特の見せ方」が今回はやわらかく感じますが、臨場感はあふれています。
迷いながらも常に力強く決断する長男・大地を演じる山崎賢人、内なる想いをグッと静かに見せる茂木裕人を演じる竹内涼真、伸び盛りの2人がとにかく気持ちよく見せてくれます。
スポーツショップ経営の有村融を演じる光石研の巧さも光ります。冷淡な役を演じる“光石研感”はひとカケラもなく、話す、聞く、見る、そして見守る、仕草のすべてに温かい有村さんがにじみます。一方、ピエール瀧は、映画『寄生獣』の三木役を含め、いくつもの悪役の匂いを絡ませた新しい怖さを生みだしました。背中だけで怖い、これまた至極の演技です。
『ルーズヴェルト・ゲーム』で不運の投手を演じた馬場徹は、一見ヒールの銀行員役。やさしさだけでは解決しない、しかし厳しいだけでは大切なものを見失う、バランス感のある演技が光ります。銀行員を辞した坂本太郎役の風間俊介の力強さも見もの。狂気の役も絶品な彼ですが、今回は仕事への熱意をまっすぐに見せてくれています。また、阿川佐和子演じる縫製職人・正岡あけみの粋にも注目です。
見せてくれるのは、空と光と音楽と希望
空中からの大きな映像が印象的な『陸王』。ダイワ食品陸上部のトラックから見える空、こはぜ屋作業場に差し込む光。絶望の場面でも完全な闇ではなく、見せてくれるのは希望であり、日曜日の夜を過ごすすべてのひとに届きます。『陸王のテーマ』『Jupiter』『糸』が聴こえるたびに、泣いてばかりいられない、そう想わせてくれる音楽も、私たちの胸に響きます。
12月3日放送の第7話では、「宮沢社長らしくない」「なんだか、とても哀しくなる」そんな場面がいつになく多く、最大の窮地を感じました。しかし、うまくいかないのが人生。ここからどう巻き返すのか、私たちもさらに熱が入ります。