フィンテックの進展がその陰にある?
ここにきて三菱東京UFJ、みずほ、三井住友と、メガバンク三行のリストラ報道が相次いで報道されました。大規模な人員削減、国内店舗の思い切った統廃合等々がその中身です。ITテクノロジーと金融サービスの融合であるフィンテックの進展がその陰にあるとのトーンが報道の主流ですが、元銀行関係者の立場から、この問題をもう少し深堀してみましょう。
日本の銀行と海外の銀行の違い
一般的には意外に知られていないことですが、法人融資業務を主流として「預金を集め、その資金を貸す」という伝統的な国内銀行のビジネスモデルは、今や世界的に見ると至ってガラパゴスなビジネスモデルなのです。海外の銀行は、業務自由化の展開が早かったことも手伝って、プロジェクト・ファイナンス組成やM&A仲介をはじめとした各種手数料収入と富裕層取引を中心としたコンサルティング・ビジネスを、その収益の中核においています。
一方日本の銀行はと言えば、戦後復興の流れの中で高度成長期を支える存在として活躍し、黙っていても安全に高利で融資できる先が豊富にあったことで、日本的ビジネスモデルが最強のバンクビジネス・スタイルとして定着しました。バブル経済の崩壊後の低成長期に入り、銀行は手数料収入の増強をはかるべくビジネスモデルの転換をはかってきましたが、依然として業務の中心には決算書と担保頼みの法人融資がドッシリ構えているのです。
日銀のマイナス金利政策によって追い込まれた
ところがここに来て状況が一変しました。日銀のマイナス金利政策により、法人融資は儲からないどころか、下手をすれば赤字にもなりかねないという状況に追い込まれたのです。当初マイナス金利は一時的な政策との見方もあったのですが、政府も本腰を入れて後押しするなどこの政策の本気度合いが伝わるにつれ、このままでは銀行経営が立ち行かなくなるという危機感が煽られて、脱法人融資中心のビジネスモデルが模索されているのです。
言ってみればマイナス金利政策が、本来あるべき世界標準のバンクビジネスの方向性を明確化したわけで、経費削減による収益体質強化を急ぐ各行にとって大きな課題である店舗や人員の削減の助けになる道具として、今フィンテックが俄然注目を集めているのです。ではこれから銀行はどこに向かっていくのでしょう。
収益基盤は海外での手数料ビジネスに。個人取引はどうなる?
基本的にメガバンクは収益基盤を海外での手数料ビジネスに求めていきます。すでに三菱東京UFJ銀行は、全収益の約40%が海外業務によるものになっており、他の2メガバンク・グループも確実にこの方向を強めていくでしょう。同時に国内では、個人特定富裕層取引の強化をはかる流れに移行していきます。これは欧米ではごく当たり前の流れであり、中小企業融資もあくまでオーナー一族取引を確保するための道具として使われるようになると考えられます。
その他大勢の一般個人取引はどうなるのかと言えば、コンビニや郵便局など提携機関を窓口として、業務の大半はフィンテックを駆使したITバンキングに集約されていくでしょう。すなわち近い将来、コストのかかる有人対応は富裕層向けサービスに限定される流れが確立し、銀行は店舗も人員も大幅な削減が実現できる、ここ最近のニュースの裏側にあるのはそんな構図なのです。
地方銀行は地域密着型独自ビジネスの構築が必要に…
以上がメガバンクが描く未来予想図なのですが、その他多くの地方銀行は少し事情が異なります。海外業務という収益源をもたない彼らは、地場法人に対する目利き融資で収益確保をはかりつつ、競争力のある地域密着型独自ビジネスの構築も同時に進める必要があります。しかしながら、店舗統廃合もメガバンクほどのスピードでは進められにくいこともあり、このままでは2025年には地銀の約6割が赤字に転落すると言われています。地銀同士の合併・統合はこの先も、かなりなハイスピードで進むことと思われます。
この先5~6年の間に、銀行界が過去に例を見ないほど激しい変革期を迎えることは確実で、メガバンク、地銀の動きから当分目が離せそうにありません。