「小池劇場」旋風は続く…今後は何が焦点になる?

衆議院解散。安倍晋三首相の思いとは裏腹に、小池百合子都知事は、新党「希望の党」代表就任という形で敢然とこれに立ち向かい、またここに野党第一党の民進党が合流という動きまで出て、10月22日が投票日となる衆院選は大波乱の様相を呈してきました。波乱の中心にある小池都知事の戦略分析と、現状局面における今後に向けたポイントを探ってみます。

突然涌き上がった衆議院解散と小池新党

小池百合子
ラグビーのイベントに出席する小池都知事=2017年9月18日(写真:AFP/アフロ)

ここに来て突然涌き上がった衆議院解散。安倍晋三首相の思いは、内閣支持率回復局面でかつ、台風の目となりうる小池新党の準備が整わない今がチャンス、ということであったのは想像に難くないところです。しかし、小池百合子都知事は、新党「希望の党」代表就任という形で敢然とこれに立ち向かい、またここに野党第一党の民進党が合流という動きまで出て、10月22日が投票日となる衆院選は大波乱の様相を呈してきました。波乱の中心にある小池都知事の戦略分析と、現状局面における今後に向けたポイントを探ってみます。
 

都知就任から約1年。小池旋風の正体は?

小池都知事に関しては、All About NEWSでこれまで2度取り上げてまいりました。最初は都知事就任後の自民党を仮想敵に仕立てた「小泉純一郎流イメージ戦略」について。2度目は東京五輪および築地市場移転問題で、「決められない都知事」的なイメージにやや苦戦を強いられてきた状況分析を。その後、「結論を出す」ことと仮想敵叩きを強化することでマイナスイメージを払拭し、都議選を大勝。小池旋風は最初のピークを迎えました。
 

都知就任から約1年を見てきて、結局のところ小池旋風の正体はやはり、彼女が近くで見て学んだ小泉純一郎元首相譲りのマーケティング的イメージづくりなのです。この点で、今回の「希望の党」旗揚げに際して見事だったのは、当初小池氏の両脇を固める若狭勝、細野豪志両議員に立ち上げと運営を任せたものの、どちらが主導権を握るかで前に進まないと見るや、いきなり「リセット」を命じて自ら代表就任を宣言。「決められない」イメージへの逆戻りを完全にシャットアウトしました。これは都議選での勝利に学んだ成果でしょう。
 

今後、小池劇場がこのままの勢いで突っ走れるのか

新党立ち上げに際しての「日本をリセットする」「しがらみのない政治」等々、相変わらずの絶妙なコピーワークも小池劇場の盛り上げに一役買っていると言えます。このあたりは、小泉元首相譲りのイメージ戦略が見事にはまっているわけです。では今後、小池劇場がこのままの勢いで突っ走れるのか、その戦略上のポイントはどこにあるのか。
 

何より手本にしていると思われる、小泉劇場との現時点での違いという点から見てみると、大きく異なっているのは軸になる政策の有無です。いわば経営ビジョンです。小泉元首相は、それが正しいか正しくないかの議論は別にして、当時の橋本行革からの時流の中で行革の目玉として「郵政民営化」というものを強引に自身のオリジナリティを象徴する政策として掲げることで、これをベースに長期間にわたり国民の高い支持を得てきました。
 

この政策が奮っていたのは、自民党の支持母体である特定郵便局長会を敵に回すような政策であり、党内でこれまでタブー視されてきたものに敢えて焦点を当てることで、「自民党をぶっ壊す」「反対勢力を叩きつぶす」という姿勢の真実味や、既得権益を許さないイメージを強く国民に植え付けることに成功した、という狙いどころの巧みさでした。
 

イメージ戦略に暗い影を落としかねない部分も

小池「希望の党」は国民に対して、「希望」に代表される非常に響きの良い言葉を並べて党の立ち上げを宣言しましたが、政権を奪取した暁には「必ずこれをやり遂げる」という軸になる施策が未だ見えません。可能性とすれば、「自民党政治をリセットする」立場から政権奪取を狙うのなら、党の考え方の中に入っている「原発ゼロの実現」という政策がその最右翼なのかもしれません。小泉元首相が引退後、ことさらに「原発ゼロは実現できる!」と言い続けているのは、小池都知事に対するエールを贈っているようにも思えてきます。
 

もう一つ、小池「希望の党」の戦略上のポイントは、今盛んにメディアをにぎわせている、民進党との関係です。民進党から誰が、そしてどれだけの人数が「希望の党」に移行していくのか、これはここまで順調に来たイメージ戦略に暗い影を落としかねず、慎重な対応が求められるところです。それと小池氏自身の動向、すなわち都知事辞任→衆院選出馬も同様です。都知事辞任は、敵陣営にとっては「自分勝手」「投げ出し政治家」として格好のイメージダウン要素となりうるので、ここにも慎重な判断、対処が求められるでしょう。
 

一時のブームで終わらせないために必要な「経営ビジョン」

これらを払拭できるか否かは、一般に「大義の有無次第」という言い方をされますが、それがすなわち「政権の座に就いたら何を実現してくれるのか」、「軸になり国民の支持を得られる具体的政策が何であるのか」、なのです。企業でいうところの経営ビジョン。これが明示できるなら、それらのマイナス要素がたとえ現実のものになっても恐れるに足らずであるのです。

小池劇場の現状先行気味のイメージ戦略が現実と結びつく重要なポイントも、まさしくそこにあると思います。10日の衆院選告示に向けて、「希望の党」がどのような具体的な政策を掲げ、小池氏がそれをどのように国民に対して伝えるのか、小池劇場の賑わいがこのまま継続するか否か、一時のブームで終わるのか否か、そこが焦点になるとみています。

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