父の財産は母のために使えない!? 成年後見制度の意外な落とし穴

認知症で意思能力を失うと財産は凍結状態になってしまいます。財産管理手段として成年後見制度がありますが思わぬ落とし穴もあります。あるご家族の事例から、家族信託で認知症による資産凍結を避けながら、将来の介護費用のめどをつける方法をご紹介します。


認知症を患い、意思能力を失うと、その人の財産は動かせなくなってしまいます。
 

認知症になっても財産管理ができる主な方法としては、成年後見制度があります。家庭裁判所から選任された後見人が、財産の管理を行う仕組みです。ただ、成年後見制度には思わぬ落とし穴もあります。

先日、40代女性・Tさんのご家庭で実際に起こった事例でご紹介します。
 

一刻も早く!認知症になったら自宅は売れない

Tさんのご両親はお二人とも80代で、夫婦共有名義の自宅マンションにお住まいでした。その後、父が要介護状態となり、特別養護老人ホームへ入居します。残された母も一人暮らしには不安を感じ、施設に入ることを希望していました。

そこで、空き家になってしまう自宅マンションの売却を検討し始めましたが、父はすでに体が弱く、契約手続きを自身で行うのが難しい状態です。このところ物忘れも増え、いつ認知症になってもおかしくなく、一刻も早く取り組まなければなりません。

なぜなら、前述の通り、認知症になってしまうと契約行為ができないため、マンションの売買ができなくなってしまいます。

そこでTさんは、父の代わりに自宅マンションを売却するため、成年後見人制度の利用を考えました。

Tさん家の状況

 

財産を減らさないことが第一。後見人制度の落とし穴

実は、この状況で後見人制度を使うと落とし穴があります。たとえ母が、父の扶養家族であっても、父のお金は母の生活や介護の費用として、一切使えなくなってしまうのです。

家庭裁判所によって選任された成年後見人がすべての財産を管理するのが、成年後見制度の仕組みとご説明しました。この制度の目的は、あくまで被後見人(今回の場合は父)の財産の保全にあります。

たとえ成年後見人であっても、本人のためにしか財産を使うことができません。仮にTさんが後見人になれたとしても、財産を減らす行為は基本的にできないのです。

自宅マンションなど、居住用不動産の売却には、家庭裁判所の許可を得なければなりません。売却は財産を減らす行為ですし、特に自宅の場合は本人の生活環境や心身に大きな影響を与える可能性がありますから、慎重に行う必要性があるからです。

現預金も、本人のためにしか使えません。父の預金を、母の今後の介護費には充てられないのです。

後見人が付いたら

とはいえ、母はずっと専業主婦だっただけに、年金も少なく、生活に困ってしまいます。Tさんが母の生活費を負担するといっても、もちろん限界があります。
 

家族信託を利用して認知症による財産凍結を回避する

これらの問題を解消するために、Tさん家では家族信託の仕組みを利用しました。

家族信託とは、財産を信頼できる家族に託し、管理・処分を任せる財産管理の方法です。家族間で信託契約を交わし、家族が本人の代わりに財産管理を行える仕組みを作ります。

Tさんは、はじめに父との間で「預貯金とマンションの管理をTさんに託す」という信託契約を結びました。
 

ただ、これだけでは共有名義の母の分が残っています。そこで母とも「残ったマンションの2分の1の管理権限をTさんに託す」という契約を結びました。こうすることによって、両親に負担をかけることなく、Tさんの手続きだけで、いつでもマンションの売却が可能です。認知症による資産凍結を避けながら、将来の介護費用のめどをつけることができました。
 

家族信託でマンションを託す


同じ財産管理といっても、利用用途が限られている成年後見制度と家族信託では、使い勝手の良さが大きく異なります。

ただ、家族信託は信託契約を結ぶという法律行為が必要なので、認知症になり、判断能力がなくなると利用できません。他に認知症になった後も家族が財産を動かせるようにする仕組みとしては、任意後見がありますが、こちらも認知症になってしまったら手遅れです。
 

70歳を超えたら認知症のリスクが急激に高まります。両親が高齢になり、Tさんのように事態が差し迫ってから、それでは対応できないことに気付き、慌てる人も少なくありません。

いざという時に困らないよう、子どもの側からも早め早めに、認知症になった際の財産対策についても考えておきましょう。

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