トヨタの「もっといいクルマづくり」という哲学を具現化?
トヨタが新スポーツブランドである「GR」シリーズを発表した。スポーツカーはいつの時代もニッチではあるが、スポーティ仕様やスポーツバージョンは根強い人気を保っている。トヨタの「GR」は、同社が掲げる「もっといいクルマづくり」という哲学を具現化した回答例といえるかもしれない。
「G Sports」はクルマ好きを中心に一定の認知度を得ていた
トヨタは2010年1月にスポーツコンバージョン車シリーズである「G Sports(通称:G’s)」を発表した。第1弾はミニバンのヴォクシー/ノアであることからも分かるように、ピュアスポーツカーを送り出したのではなく、カタログモデルをドレスアップやカスタマイズしたスポーティ仕様だった。
その後、ヴィッツやプリウス、マークX、ハリアーなど「G’s」仕様のラインナップを拡大し、クルマ好きを中心に一定の認知度を得ている。あくまでピュアスポーツカーではなく(86など一部の限定車のぞく)、コンパクトカーやセダン、ハイブリッド、ミニバンやSUVなどを仕立てているのがポイントだ。
G’sシリーズは、都内ではそう頻繁に見かけるわけではないが、トヨタのお膝元である愛知県ではプリウスG’s(先代)を筆頭に、街中での遭遇率は高い(あくまで個人的な感想だが)。
愛知県はトヨタ車自体のシェアが高く、たとえばプリウスG’sでいえば、プリウス自体の母数も多く、必然的にG’s仕様も増えるのだろう。かつて、トヨタ関係者から「確かにプリウスのG’s仕様は売れている」という話を伺ったことがある(こちらもあくまで感触のようだが)。
「G Sports(G’s)」改め「GR」に。その特徴は?
さて、トヨタが「G’s」から「GR」シリーズに改名したのは、従来のドレスアップ中心のメニューからさらに一歩踏み込んで、ボディ補強や専用サスペンションといった走りの強化がさらに注力されている印象だ。もちろん、以前の「G’s」でもこうしたメニューがあったが、「GR」では走りの機能を追求するパーツとして、将来的には機能系パーツも導入する計画があるという。
こうしたスポーツバージョンは、日産「ニスモ」、ホンダ「モデューロ」、SUBARU「STI」、「STI Sport」などがあり、欧州勢では、メルセデス・ベンツやBMW、アウディ、ボルボなどもスポーティライン(本格派とスポーティ仕様の2つを揃えている)を積極的に展開している。
トヨタもエンジン内部までチューニングされるなど、本格派の「GRMN」を頂点に、GRMNのエッセンスを注ぎ込んだ量販スポーツモデルの「GR」、ミニバンなどにも設定し、気軽にスポーツドライブを楽しめる「GR SPORT」を設定している。
「クルマ文化を育みたい」というトヨタの狙い
トヨタが掲げる「もっといいクルマづくり」には、レースから市販車へのフィードバックが欠かせない。それは単にスポーティバージョンを売るということだけでなく、レースまでは参加しなくてもカスタマイズを楽しんだり、サーキット観戦でモータースポーツに触れたりするなどの「クルマ文化を育みたい」という狙いがあるよう。
最近のクルマ業界は、「コモディティ化」や「EVシフト」、「自動運転」などのキーワードが注目されがちだが、クルマを楽しむというニーズは根強いものがある。しかし、どうやって需要をキャッチし、さらに掘り起こすかトヨタも「G’s」から「GR」にアップデートしながらも模索している面もありそうだ。