森金融庁長官が異例の続投…経営者を悩ませる「地銀改革」の行方

金融庁森信親長官の3年目続投が決まる…その理由は

金融庁

金融庁森信親長官の3年目続投が発表されました。この任期期間は、金融庁にとって歴代最長となります。なぜ3年の長期政権になったのかと言えば、「森金融庁」最大の課題である地方銀行の未来予想図作成において、設計図面はできたものの本当に組立可能な図面なのか分からない、そんな段階にあるからに他ならないでしょう。
 

地銀再編のアクセルは10年近く進まなかった

銀行界は90年代後半の金融危機により、大きな転換期を迎えました。テーマはバブル経済の元凶ともなった、わが国における銀行の数が多すぎる、いわゆるオーバーバンキングの是正です。まずは都市銀行が00年代に、相次ぐ統合という形で整理されました。バブル期に13行あったその数を、メガバンク3行プラスアルファに集約するという「ウルトラC」が、実質金融庁主導の力技で実現し、その第一幕は見事なほどに美しい完成形をみました。
 

その間、地銀に対する指導指針は、景気の回復を待ちつつ不良債権処理と金融機関経営の正常化が優先され、再編へのアクセルは踏み込まれることなく10年以上が過ぎました。08年にリーマンショックが発生し、政府が金融機関を通じた中小企業保護政策を走らせたことも、より長期にわたりモラトリアム状態が継続する要因になったと言えます。
 

森氏の就任で「企業と経済の成長と資産形成」重視へ転換

森
森信親長官=5月10日(出典:共同通信

銀行債権の健全化が進んだ15年7月に長官に就任した森氏は、いよいよ従来路線から大きく舵を切ります。「銀行の健全性」重視から「企業と経済の成長と資産形成」重視への転換です。具体的な中身は、旧来の保守的な地銀経営の下で日本経済の発展はない、現状維持の銀行に将来はない、と言う地銀の統合推奨ともとれるかなりショッキングなものでした。
 

これを受ける形で15年9月に、地銀トップの横浜銀行が第二地銀上位行である東日本銀行との経営統合を発表します。金融危機以降、経営健全化の過程において、いくつかの地銀の経営統合はあったものの、両行は当面経営に不安のない地銀同士の統合であり、過去のそれとは明らかに一線を画するものでした。しかも共にトップは旧大蔵省OB。まさしく、新方針の徹底をもくろんで後ろで糸を引く森金融庁長官の姿が見え隠れしたのです。
 

マイナス金利に追い立てられた地銀の経営統合

続いて11月には地銀上位2行の常陽銀行と足利銀行の経営統合が発表され、風雲急を告げます。そして動き出した地銀再編の流れを一気におしすすめたのが、翌16年1月に日本銀行が導入したマイナス金利政策です。これにより将来にわたる収益環境の悪化を予知した地銀経営者たちは、危機感を一気に強めました。2月に長崎の十八銀行がふくおかFG入りを発表、3月には千葉銀行と武蔵野銀行も包括業務提携を発表しました。
 

2017年に入り地銀統合の流れはさらに急展開します。2月に三重県で三重銀行と第三銀行が、3月には大阪、神戸の第二地銀3行が系列メガバンクの枠を超えて統合を発表。同じく3月に、共に新潟を拠点とする第四銀行と北越銀行も経営統合の意向を表明しました。このような隣接県統合から同県内統合に移行してきた地銀再編の流れは、地域経済の将来的な収縮を予測した上でパイの奪い合いによる共倒れを避けた経営統合であり、危機感の高まりがいよいよ第2ステージに入ったことを意味するものとして受け取れます。
 

役人の理想論?地銀にとって悩みはますます深くなる

この間、森金融庁はさらなる追い打ちをかけるかのように、「日本的金融の排除」を呼びかけます。具体的には、決算書と担保に頼った審査姿勢を改め、事業性評価融資を確立すること、没個性を脱却し独自性のある銀行業務展開を志向することを指示。今度は、経営統合は生き残りに向けた方法論のひとつではあるが目的ではない、と言わんばかりの内容でした。
 

地銀経営者は今悩んでいます。これまで手とり足とり、箸の上げ下げまで事細かに指示をしてきた金融庁が、地銀の未来予想図作成ルールは提示しながらもマニュアルは一切なく具体案作成は各行でやれと、突き放したのですから。森金融庁の改革指針は至極当然と受け取れる内容でありながら、具体案への落とし込みに苦慮する地銀からすると、地銀の歴史や実態を知らない役人の理想論に過ぎない、とさえ写りかねないのです。
 

マイナス金利に追い立てられた地銀の経営統合は、全国各地でまだまだ進むでしょう。しかし、統合はすれどもその先の展開をどう描くべきか、護送船団方式に飼い慣らされてきた地銀にとって悩みはますます深くなるのです。地銀を追い込んできた金融庁が、この問題にいかにして具体的な道筋をつけていくのか。地銀改革が統合を超え先に進むか否かは、地銀各行の努力と共に3年目を迎える森金融庁の手腕にもかかっているように思います。
 

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