異例の手続きで強行採決された「共謀罪」法
犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が15日朝、参院本会議で自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数により可決、成立しました。
参照:「共謀罪」法が成立、自公強行 委員会採決省略、懸念置き去り(共同通信)
共謀罪はなぜ必要?生活への影響は?わかりやすく解説
参院法務委員会の採決を省略するため「中間報告」と呼ばれる異例の手続きで採決を強行した形となりましたが、この「共謀罪」とはどのようなものなのでしょうか。また、どうして成立を急がなければならなかったのでしょうか。
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「共謀罪」とは何?
「共謀罪」とは、一体どのようなものなのでしょうか。これについては、塾講師で学習アドバイザーの西村創氏がAll Aboutの『今さら聞けない「共謀罪」法案をわかりやすく解説』で解説をしています。
共謀罪とは、「犯罪組織が犯罪の計画を立てた段階で罪になる」というものです。たとえば、国際テロ集団による爆破、暴力団による殺傷や、いわゆる振り込め詐欺のような組織的犯罪などを実行する前の段階での検挙・処罰することが可能になり、国民の被害を未然に防ぎやすくするための法案です。
なぜ、与党は法案の成立を急いだのか
それでは、なぜ、与党は法案の成立を急いだのでしょうか。
西村氏によると、2000年に国連総会で採択された「国際組織犯罪防止条約」という国境を越える犯罪を防ぐための条約の存在がきっかけにあるようです。この条約には187国が加盟していますが、日本はまだ加盟できていません。条約を締結するには「共謀罪」を成立させるという条件をクリアする必要があったからです。
また、政府は「条約に締結すれば、各国協力のもと、国境を越えて暗躍する国際テロ集団を封じ込めることが可能になり、また日本国内でテロを起こされるリスクを減らせる」と政府は説明しています。また、東京五輪・パラ五輪が近づいたため、国民の理解を得られやすいと考え、この法案の可決を急いでいる背景があるようです。
賛成派、反対派の言い分は?
一方の民進党は、「国際組織犯罪防止条約は、もともとマフィアや暴力団が行うマネーロンダリングや人身売買を処罰することを目的としてつくられた条約で、テロ対策とは関係ない」と説明しています。さらに、国連が出している条約立法ガイドには、「新しい犯罪の創設や実施は各締約国に委ねられている」と書いてあり、日本は現行法で条約に加入すべきだと主張しています。
「安倍晋三首相は、“条約の国内担保法を整備し、本条約を締結することができなければ、東京オリンピック・パラリンピックを開けないと言っても過言ではない”と言っています。これに対して、反対派は“条約締結は国際オリンピック委員会の要請ではなく、開催条件でもない。オリンピックに便乗して共謀罪を成立させようしている”と主張しています」(西村氏)
改正組織犯罪処罰法ではどんな規定がされている?
15日に可決、成立した組織犯罪処罰法の改正案ではどのようなことが規定されているのでしょうか。これに関して、弁護士の今西順一氏はAll About NEWSの『「共謀罪」とは何?SNSで監視される?法案の内容をわかりやすく解説』で説明をしています。
条文を分かりやすく読み解くと、今西氏は次のように言えると言います(参照:髙山加奈子著、「共謀罪の何が問題か」岩波書店、2017年)。
- 組織的犯罪集団の活動として
- 2人以上の者が対象犯罪を計画して
- 実行準備行為を行った場合に処罰される(刑罰の重さは対象犯罪により異なり、5年以下の懲役・禁錮、又は2年以下の懲役・禁錮となります)。
■1の「組織的犯罪集団」とは
組織的犯罪集団とされていますので、暴力団、詐欺集団が対象で、国民の一般的な社会生活上の行為が対象にはならないようにも読み取れます。しかし、今西氏によると過去の最高裁の判例から団体であれば対象となる可能性があると指摘しています。
■2の「対象犯罪」とは
どんな犯罪を計画したら対象になるのかというと、組織的殺人や薬物の輸出入、人身売買、組織的詐欺、逃走援助など、277に及びます。
■3の「実行準備行為」とは
また実行準備行為とは、どのようなものでしょうか。今西氏によると、条文では、実行準備行為の例示として、資金又は物品の手配と関係場所の下見と規定しているようです。
「もちろん、これは例示ですから、その他どんな行為でも実行準備行為に該当する可能性はあります」(今西氏)
生活が大きく変わる?SNSは監視される?
今西氏は、この法律が施行されたからといって突然生活が変わることはないとしつつも、対象行為が無限定・広範であることから、捜査機関が簡単に捜査を始められるようになるとしています。
また、法律の施行=監視社会になってしまうのではないかという不安もあるかもしれません。犯罪の計画とその実行準備行為が捜査の対象になるわけですから、メールやSNSでのやり取りも捜査対象にもちろんなりますが、これらは通常の犯罪でも捜査対象となっているので大きく変わるということでもないかもしれません。しかし、今西氏は以下のような点は指摘しています。
「捜査機関に捜査の取っかかりを広く与える以上、捜査が行われるなかで、対象者のプライバシー等の人権侵害が発生することは避けられません」(今西氏)
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