障害者とアーティストが共創「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017」

障害者とアーティスト、市民が協働で作品を創作し、その成果を発表する国際芸術祭「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017」が5月27日から12月下旬にかけて象の鼻テラスを中心に、横浜市内各所で行われる。2回目となる同展のテーマや見どころが発表された。

2回目となる「パラトリ」アートの力で協働の機会を創出

障害者とアーティスト、市民が協働で作品を創作し、その成果を発表する国際芸術祭「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017(以下、パラトリ)」の開催が発表された。同展は「アートの力で多様な人々の出会いと協働の機会を創出し、誰もが居場所と役割を実感する地域社会を実現する」というビジョンを掲げ、現代アートの国際展「横浜トリエンナーレ」と時期を合わせて2014年に初開催、今回で2回目となる。

 

5月27日(土)に象の鼻テラス(横浜市中区海岸通1)で開催されるキックオフイベントをスタートとし、9月末までに随時さまざまな場所でワークショップが行われ、10月上旬には発表会、11月からは展示会が横浜市内各所で予定されている。

ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014 象の鼻テラスでの展示のようす。天井を覆うのは、井上唯《whitescaper》。今回は制作人数1万人を目指し、象の鼻パークへと広がっていく(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)
ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014 象の鼻テラスでの展示のようす。天井を覆うのは、井上唯《whitescaper》。今回は制作人数1万人を目指し、象の鼻パークへと広がっていく(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)

 

「障害者アート展ではない。多様な人々がプロと出会い、新しい芸術表現を見出す」

総合ディレクターを務めるのは、前回同様、栗栖良依(くりす よしえ)さん。5月27日(土)のキックオフイベントに先がけて行われた記者発表会では、障害を超えて街と市民、芸術が混ざり合うイベントについて、また参加予定アーティストや見どころについて、次のように説明した。

総合ディレクターの栗栖良依(くりす よしえ)さん。「日常における非日常」をテーマに新しい価値を創造するプロジェクトを多方面で展開。2010年、骨肉腫による右下肢機能全廃で障害福祉の世界と出会う。翌年、横浜ランデヴープロジェクトのディレクターに就任し、市民参加型ものづくり「SLOW LABEL」を立ち上げる(2017年5月17日撮影)
総合ディレクターの栗栖良依(くりす よしえ)さん。「日常における非日常」をテーマに新しい価値を創造するプロジェクトを多方面で展開。2010年、骨肉腫による右下肢機能全廃で障害福祉の世界と出会う。翌年、横浜ランデヴープロジェクトのディレクターに就任し、市民参加型ものづくり「SLOW LABEL」を立ち上げる(2017年5月17日撮影)

 

「ヨコハマ・パラトリエンナーレは、障害のある方が創作したものを発表するアート展、フェスティバルではありません。障害のある方の突出した知覚・感覚──それだけではアートにならない能力と、いろいろな分野のプロフェッショナル、例えば、アーティストやデザイナーがコラボレーションすることによって、新しい芸術表現を見出していったり、社会に関係していったり、そういったことを創り出すフェスティバルです」(栗栖さん)

《声の矢印、言葉の地図》は「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」でアテンド役をつとめる視覚障害者の檜山晃さんがその場で発した言葉を、詩人の三角みづ紀さんが詩にした作品。点字や音声ガイドがなくても「隣りの人が読んであげる」ことで目の見えない人にも伝わるという案内板として設置された(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)
《声の矢印、言葉の地図》は「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」でアテンド役をつとめる視覚障害者の檜山晃さんがその場で発した言葉を、詩人の三角みづ紀さんが詩にした作品。点字や音声ガイドがなくても「隣りの人が読んであげる」ことで目の見えない人にも伝わるという案内板として設置された(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)

 

さまざまな出会いがひとつにとけあい、壁や境界線をとかしていく

今回のテーマは「sense of oneness(とけあうところ)」。前回のテーマ「first contact」から3年、出会った人と人が関係性を掘り下げ、相互理解を深め、今回は互いの個性や特徴を活かし合い、一体感を持って、社会にあふれる「壁」や「境界線」をとかしていく瞬間を、参加した方に体感してもらえる場にしたいという思いが込められている。
 
同展の見どころとして、次の3点を挙げている。

  1. 障害の有無に関わらず、市民がともに参加できる創作ワークショップを横浜市内各所で開催
  2. 多様な市民が一つにとけあう……巨大インスタレーションと野外パフォーマンスを発表
  3. 障害のある方の創作活動を支えるアクセシビリティ(=利用しやすさ)を学び、実践する講座を広く展開

 

創作、発表、公開の3部構成で2020年に向けての機運を醸成

具体的な実施構成は、開催期間を分けて、協働制作、発表、さらに協働制作や発表の過程や成果を記録し展示する3部構成となっている。2020年をゴールとするパラトリの機運を醸成したいとのこと。

 

  • 第1部<創作> 5月27日(土)~9月30日(土)

5月27日(土)に象の鼻テラスで開催されるキックオフイベントでは、プレゼンテーションのほか、金井ケイスケさん(サーカスアーティスト)による「サーカスワークショップ」(13:00~15:00、要事前申込)や井上唯さん(アーティスト)による「あみあみワークショップ」(10:30~17:00、申込不要、好きな時間に参加可)が行われる。開催時間は10:30~17:00。
 

「あみあみワークショップ」は、第1部期間中、障害者施設や学校をはじめ、さまざまな場所で行われることとなっている。公式サイトで随時、参加者を募集する予定。
 
「あみあみワークショップでは、発表会『不思議の森の大夜会』(第2部参照)の会場を構成する巨大インスタレーション作品となる、井上唯《whitescaper》を制作します。その後、横浜市内からアジア諸国まで、1万人の協働作業によって制作をすすめる予定です。キックオフイベントでは、各地で“あみあみ”を指導してくれる、中核を担ってくれる方に参加していただきたいです」(来栖さん)

あみあみワークショップでは、井上唯《whitescaper》を制作。前回は約800人が参加したが、今回は1万人の参加を目指して、横浜市内からアジア諸国までワールドワイドにワークショップを展開する予定(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)
あみあみワークショップでは、井上唯《whitescaper》を制作。前回は約800人が参加したが、今回は1万人の参加を目指して、横浜市内からアジア諸国までワールドワイドにワークショップを展開する予定(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)

 

第1部期間中に、「アクセシビリティ研究講座」を開催し、社会にあふれるバリア(障害)を想像し、創造力で解決していく「アクセススタッフ」を育成。第2部で実際に活動してもらう。合わせて、広報大使「パラトリ・アンバサダー」を募集し、ライラ・カセムさん(グラフィックデザイナー)のもと、多様なメンバーでコミュニケーションについて研究しながら、バリアを取り除くことを目指す。

アクセシビリティ研究講座のワークショップのようす(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)
アクセシビリティ研究講座のワークショップのようす(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)

 

また、6月3日(土)には第2部の発表会『不思議の森の大夜会』に出演するパフォーマーのオーディションを行う。障害の有無に関わらず、多様な市民パフォーマーを発掘したい考え(オーディション参加者は5月30日(火)まで募集中)。ワークショップ、リハーサルを重ねて作品を作りあげていく。同時に、障害者の創作活動を支援するアクセスコーディネーターや、一緒に創作活動をするアカンパニスト(=伴奏者の意)も育成する。

 

  • 第2部<発表> 10月7日(土)~9日(月・祝)

第1部の成果を『不思議の森の大夜会』(象の鼻テラス、象の鼻パーク)と題して発表する。あみあみワークショップで参加者が作った空間インスタレーション、ツアー型パフォーマンス、アートパフォーマンス、食のプロジェクトが一体となり、参加者ひとりひとりの個性がとけあう空間を繰り広げる。詳細については後日発表。

前回行われたパレードのようす(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)
前回行われたパレードのようす(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)

 

2017年5月現在で発表されている参加アーティストは、現代芸術活動チーム 目【め】、井上唯さん、密林東京さん、番場俊宏さん、金井ケイスケさん、熊谷拓明さん、鹿子澤 拳さん、かんばら けんたさん、南雲麻衣さん、森田かずよさん、ライラ・カセムさん、SAFARI inc.、池田美都さん、信耕ミミさん、武田久美子さん、藤原一毅さん、石原桃子さん、坂口修一郎さん、坂東美佳さん。

 

  • 第3部<展示> 11月~12月下旬

創作過程や発表会の模様を記録し、映像作品や写真を展示する。象の鼻テラス、横浜ラポール(横浜市港北区鳥山町1752)ほか、横浜市内各所を巡回予定となっている。今回参加できなかった方にも、ヨコハマ・パラトリエンナーレのビジョンを広く発信することでムーブメントを広げ、次回(2020年開催予定)に向けたさらなる展開へとつなげたい考え。

栗栖さんは、「ヨコハマ・パラトリエンナーレは、開催年、イベントを開催している日だけ活動しているものではありません。たくさんの人と出会い、たくさんの取り組みをしています。その過程をしっかり見ていただけるような展示にしたい、と考えています」と話す。

総合ディレクター・栗栖良依さんと実行委員長・島田京子さん(2017年5月17日撮影)
総合ディレクター・栗栖良依さんと実行委員長・島田京子さん(2017年5月17日撮影)

 

日本はまだまだ「バリア」だらけ、2回目でようやくスタート地点に


栗栖さんは、前回(2014年)のパラトリで、日本の障害者が芸術文化に気軽に参加できる環境がまだまだ整っていないことを実感したそう。

「施設に出向いてワークショップを行うと、皆さん喜んで参加してくれるのですが、『○○でワークショップを行います』と募集してもなかなか参加してもらえないんですね。障害のある方がその場へ行くまでのアクセスが困難というだけでなく、本人や家族の『迷惑をかけるのでは』という精神的なバリアが存在することもわかりました。
 

私自身、障害者施設に通って、創作活動やものづくりを見てきた中で、障害を持つ当事者ではなく、周りの方(施設職員、家族など)が持つクリエイティビティやセンスがアウトプットの質に大きく関わることを実感しました。
 
そこでこの2年間、アクセスコーディネーターやアカンパニストの育成に取り組み、さまざまなバリアを取り除く活動を行ってきました。今回は2回目ではありますが、ようやくスタート地点に立てたという気持ちです。新しい表現、新しい技術といった誇れるものを、横浜から世界へ発信していこう! そんな船出のような2017年にしたい、と思っています」(栗栖さん)

前回の象の鼻パークには「あみあみワークショップ」で作られた光るキノコがずらりと。今回はさらに象の鼻パークいっぱいに広がっていく(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)
前回の象の鼻パークには「あみあみワークショップ」で作られた光るキノコがずらりと。今回はさらに象の鼻パークいっぱいに広がっていく(画像提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)

 
ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017は、5月27日(土)~12月下旬まで。くわしくは、公式サイト(5月27日詳細公開開始)へ。
 
キックオフイベント:2017年5月27日(土)10:30~17:00(象の鼻テラス)
発表会『不思議の森の大夜会』:2017年10月7日(土)~9日(月・祝)(象の鼻テラス、象の鼻パーク)

URL:ヨコハマ・パラトリエンナーレ http://www.paratriennale.net/


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