2016年のアニサキスによる食中毒届出患者数は126人
寄生虫「アニサキス」による食中毒の報告件数が増えているとして、連日テレビなどの報道が続いている。厚生労働省の統計によると、2016年のアニサキスによる食中毒届出患者数は126人(124件)となっている。
アニサキスについては、タレントの渡辺直美が3月、Twitterなどでアニサキスによる食中毒になったことを明かしたほか、お笑いコンビ品川庄司の庄司智春らもアニサキスによる症状があったことを公表している。
アニサキスとは、一体どのような寄生虫なのだろうか。また、予防策はあるのだろうか。これに関して、食と健康アドバイザーの南恵子氏がAll Aboutの『アニサキス、クドア…魚の寄生虫による食中毒症状』で解説をしている。
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魚の寄生虫が原因の食中毒で多いのが「アニサキス症」
食中毒には細菌やウイルスだけでなく、自然毒(毒キノコやフグなど)や化学物質(洗剤など)、また魚に寄生している「寄生虫」による食中毒もある。
南氏によると、魚の寄生虫が原因の食中毒として最もよく知られているものは「アニサキス症」だという。アニサキス症は海外と比べ、日本で多く発生している。その背景には、日本における寿司や刺身といった生食を好む食習慣や、温度管理や冷凍技術が進み、広範囲から魚を輸送してくることが可能になったことにあるとしている。
なお、東京都福祉保健局によると、東京都内の食中毒件数を病因物質別に見ると、平成22年以降、アニサキスなどの寄生虫による食中毒はノロウイルス、カンピロバクターに次いて3番目に多く発生しており、年々発生件数が増えているという。
アニサキスとはどんな寄生虫?
アニサキス幼虫は、長さ2~3cm、幅約0.5~1mmの白い糸のような線虫。
アニサキスの卵は、クジラ等の海洋哺乳類から糞と共に海に排出され、ふ化したアニサキス幼虫は、オキアミに食べられる。こうしてオキアミを食べた魚や、さらにその魚を食べた魚介類へと食物連鎖で広がるため、サバ、イワシ、カツオ、サケ、タラ、イカ、サンマ、アジなど、多様な魚介類に寄生することになる。
アニサキスによって引き起こされる症状とは
アニサキス幼虫は通常ヒトの体内では成虫になれないので、そのまま排泄されるが、まれにアニサキス幼虫が胃壁や腸壁に刺入することで、食中毒が引き起こされる。
症状は、食後数時間から8時間後に、みぞおちの激しい痛みや嘔吐が生じる「急性胃アニサキス症」となるが、食後10数時間後から数日後に急性胃アニサキス症を発症すると、激しい下腹部痛、腹膜炎症状を起こす。
他に、消化管を穿通して腹腔内へ脱出する消化管外アニサキス症や、アニサキスアレルギーによる蕁麻疹やアナフィラキシー症状を呈した症例も報告されている。
アニサキス以外に注意したい寄生虫
アニサキスの他に食中毒となる寄生虫について以下のようなものを挙げている。
■クドア
ヒラメには、クドアという魚の筋肉に寄生する粘液胞子虫がいることがある。クドアが人の体内で成育することはない。クドアが寄生したヒラメを刺身、マリネ等で生食したり、加熱不十分の状態で食べたりすると、数時間程度(約2時間~20時間)で一過性の下痢・嘔吐を引き起こす。症状は軽度で、ほとんどは発症後24時間以内に回復し、後遺症もないといわれる。
■ブリ糸状虫
ブリなどには、目視できるミミズのようなブリ糸状虫が、血合いのところに寄生している場合がある。ヒトには害はなく、もし間違えて食べても排泄される。ただし、見ていて気持ちが良いものではないので、除去することを南氏は勧めている。
魚の寄生虫による食中毒を防ぐための注意点
魚の寄生虫による食中毒を予防する方法として南氏は以下のポイントを挙げている。
■購入時、調理時の注意点
- 魚を購入する際には、新鮮な魚を選ぶ
- 1尾購入し家でさばく場合は、帰宅後できるだけ早く内臓を取り除き、身は充分に洗浄する
- 内臓は生で食べないようにする
- サケ科の場合はアニサキスが筋肉内に寄生していることが多いので注意を
- イカ類は目視できることが多いので、確認したら除去する
- 調理する際に、まめに手洗いをする
- 野菜と生の肉や魚介類用の包丁やまな板は分けて使う
■酢や塩で死滅する?
酢は、酢酸などを含み殺菌効果が高いと言われているが、アニサキス幼虫は酸に対して抵抗性があり、一般的な料理で使う程度の量、濃度、時間では、酢じめにしても死滅しない。また同様に塩漬けや醤油、ワサビを付けても死滅しない。
■加熱調理や冷凍による死滅は?
アニサキス幼虫も含めて寄生虫の多くは、60℃では1分、70℃以上で瞬時に死滅するため、加熱調理するのが効果的。また、-20℃で24時間以上中心部まで冷凍すると死滅するので、生食する場合は冷凍・解凍後のものにすること。
■養殖魚は?
アニサキスの寄生した生餌を与えていた場合などを除いて、養殖魚にはアニサキスの寄生がほとんど認められていないので、養殖魚は安全といえる。
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