新旧ビジネスモデルのコラボが招いたギャップの拡大…
先月発覚したヤマト運輸の対アマゾン値上げおよび配送業務縮小検討に端を発した問題が、今度はアマゾンの当日配送撤退という報道になって現れました。一部でこの問題は「宅配クライシス」と呼ばれていますが、これは新世紀のビジネスモデルと旧世紀のそれのコラボレーションが招いたギャップの拡大が、大きな歪みとなって現れたものと考えられます。
「宅配クライシス」はよくよく分析してみると、大きく3つの歪み、問題から構成されていることが見えてきます。ひとつは、この問題の震源とも言えるヤマト運輸の人手不足という問題。ふたつ目が、ネット通販の急速な拡大による宅配物流量の驚異的な増大、という問題。そしてもうひとつが、競争激化の中で長期にわたり値上げをしてこなかった同社の価格設定上の歪みという問題です。
宅配業の成長期には想定できなかった人材不足問題
ヤマト運輸の人手不足という問題は、そもそも宅配業が日の出の勢いで成長を続けた80年代、90年代には想定してなかったであろう、若年労働力の大幅な減少という事態に大きな原因があります。そこに更に輪をかけたのが、電通問題に端を発したブラック労働環境是正の問題です。歴史的にみて過酷な労働環境を強いてきた宅配業界にとって、コンプライアンス重視という風潮も、80年代、90年代には想定外のことであったと言えるでしょう。
ライフスタイル多様化も宅配物流量の変化に影響
その人手不足に追い打ちをかけているのが、2番目の問題点である宅配物流量の劇的な増加です。ネット通販が台頭し始めたのが00年代、その後各サイトの品揃え、配送費用、配送スピード等における競争の成果として、ネット通販の利用量は劇的に増えることに。ヤマト運輸はアマゾンの宅配を一手に引き受けていることから、その影響をモロ被りすることになるわけです。
またライフスタイル多様化に伴う共働き、単身世帯の増加が、宅配の再配達を増加させ、宅配事業にさらなる逆風を浴びせかけます。日中不在による宅配の再配送は人手不足に追い打ちをかけ、もはや宅配業者の旧世紀的ビジネスモデル維持は限界点に達します。販売がバーチャルであっても、配送はどこまでいってもアナログです。まさしく新世紀と旧世紀のビジネスギャップが露呈したと言えるでしょう。
ヤマト運輸がサービス提供価格を据え置いた理由とは
人手不足とは別に存在するもうひとつの問題が、ヤマト運輸がこの27年間、サービス提供価格を据え置いてきていたという、ある意味で謀とも思える事実でした。その背景にあるのは、業界内の熾烈を極める争いです。特に「官業」(現在、形式上は民営化しましたが)日本郵便への果敢なる挑戦という、同社の経営が持つ使命感にも似た事業ポリシーが、次第に自らの首を絞めることになるわけです。
こうして官民入り乱れる宅配業界の主導権を握るべく、同社が「単価は安価でも」と引き受けてきた大口先アマゾン向けビジネスモデルで、複数の問題が同時に火を吹き破綻。配送時間の短縮、当日配送の見直し、値上げ交渉、一社独占の放棄等々の形で現れてきたと受け取ることが出来るでしょう。同社が放棄した一部の業務を引き受けたのが、コスト管理に疎い官業体質の日本郵便であったというのは、何とも皮肉な話ではあります。
21世紀型ビジネスを進める他業種も「他山の石」
デジタル化、バーチャル化により、利用者の利便性向上において革命的な進歩を提供してきた21世紀型のビジネスモデルですが、その根底を脈々と支えてきたアナログかつリアルな20世紀的部分をいかに21世紀仕様に変革させていくのか。ネット通販業界と運輸業界が直面した今回の問題は、他業種にとっても今後21世紀型ビジネスを進める上で無視できない他山の石であると言えそうです。
【関連リンク】