ミスター百貨店の辞任、老舗百貨店も自己破産…
三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長が、業績不振の責任を問われ辞任に追い込まれました。業界ではその直前にも、仙台駅前の地元老舗百貨店が自己破産したというニュースを耳にしたばかり。一体今、百貨店業界に何が起きているのでしょうか。
ジリ貧の業界。三越伊勢丹は巨艦店に支えられていたが
百貨店と言えば昭和の時代には、品揃えの確かさに裏打ちされたブランド力により流通業界では王道の定価販売を突き進み圧倒的な強さを誇る存在でした。しかし、バブル経済崩壊後の長引くデフレ不況の影響で業界内には経営統合の嵐が吹き荒れ、効率化、軽量化経営の旗印の下、統合モデルによる事業再構築が進展中という段階にありました。
中でも、ジリ貧の業界内にあって三越伊勢丹ホールディングスは、単館で世界最大の売上を誇りトレンド発信拠点でもある伊勢丹新宿本店という巨艦店に支えられ、比較的優位に事業再構築を進めていると見られていました。ところが、ここに来て目標を半減させるという業績の大幅下方修正をします。百貨店の屋台骨とも言えるアパレル販売において、業界ナンバーワンの巨艦店をも突き崩すようなパラダイムシフトが確実に起き、もはや伊勢丹新宿本店の神通力すら通用しない、そんな状況に追い込まれていたのです。
なぜ再び、百貨店業界でパラダイムシフトが訪れたのか
そもそも百貨店のビジネスモデルはと言えば、個別商店が商業の中心であった昭和の時代に、一か所であらゆる商品が、しかも一般店よりも水準の高い商品が手に入るということで揺るがぬブランドを確立し集客をはかるというものでした。昭和末期のバブル期には、右肩上がりの経済を背景に高額消費志向に支えられ栄華を極めました。しかし、その後に訪れたバブル崩壊で世は一気にデフレ経済に突入。高級志向、定価販売の百貨店ビジネスは大きなダメージを被り、業界内には大統合によるリストラの嵐が吹き荒れたのです。
不思議に思えるのは00年代半ばに統合が相次いだ業界において、なぜ今このタイミングで再び大きなパラダイムシフトが訪れようとしているのか、です。実は00年代半ばの大統合、リストラの嵐は長く続きませんでした。それは外国人観光客による爆買いという「神風」が吹いたからです。ここ数年の円安傾向は中国人をはじめとして大量の外国人観光客をもたらし、百貨店にとっては第二のバブル期とも言える売上増をもたらしたのです。
爆買いの「神風」がもたらしたものは
この「神風」により、業界は大転換のスピードをシフトダウンさせます。しかし、昨年来訪日客の消費はモノからコトへ移行し、百貨店の売上は軒並み大幅減少を余儀なくされました。そもそも、90年代後半からのデフレ不況の到来により、ユニクロをはじめとしたSPAと呼ばれる製造小売型の流通業が急激に勢力を伸ばしてきました。さらに海外からもH&M、ZARAなどのファストファッションが続々進出し、ここ10年ほどは既に「安くてそれなりの質」が女性層を中心として圧倒的な支持を得るに至っていたのです。
すなわち、百貨店は爆買いという「神風」により一服していたにすぎず、百貨店のブランド力が季節ごとのトレンドをつくるという昭和型のビジネスモデルは、とっくの昔に陳腐化し役割を終えていたのです。今や世の中はトレンドの最新情報がネット経由で日々入手され、欲しいモノはリアルタイムに都度手に入る、という流れに変わりました。百貨店に代わって、ネット通販大手は軒並み絶好調を迎えているのです。
従来型の百貨店ビジネスはもはや生き残れない
今回、三越伊勢丹ホールディングスという、業界内では比較的先行きが明るいと見られていた最大手企業でのトップの引責辞任は、業界における事の深刻さを如実に物語っています。また同じく業界大手のJフロントリテイリングは、今春オープンさせる銀座松坂屋跡地の新店舗を、テナント貸しを中心とした新業態とすることを公表していますが、銀座の一等地で百貨店が不動産業に転じると公言したと取れるこの対応を見ても、従来型の百貨店ビジネスはもはや生き残れないとの宣言であるとも受け取れるのです。
ミスター百貨店と呼ばれた大西社長突然の引責辞任は、業界のパラダイムシフトを象徴する、百貨店ビジネス終わりのはじまりと受け取れるように思えます。