フロントと現場のすれ違いが移籍を招いた
異常事態である。J1リーグの横浜F・マリノスが、主力選手を大量に失っているのだ。
サッカーでも野球でも、チームスポーツは現場とフロント(チームを運営する事務方)の一体感が不可欠だ。フロントのチーム作りに一貫性がなかったり、現場の理解を得られなかったりすると、選手たちの心はチームから離れていく。
マリノスは2015年のシーズンから、フランス人のエリク・モンバエルツ監督(61歳)に采配を任せている。だが、15年、16年のいずれもタイトルを獲得できていない。日本サッカーがアマチュアだった当時から多くのトロフィーをコレクションし、Jリーグの年間王者にも3度輝いている名門としては歯がゆい状況だが、フロントは17年もモンバエルツ監督を続投させることにした。
若返りを理由に年俸の大幅ダウンされる
その一方で、クラブにゆかりのあるスタッフとの契約が更新されないことが明らかになる。さらに、若返りを表向きの理由として、実績のある選手との契約が更新されなかったり、来季年俸の大幅ダウンが提示されたりした。
こうした事情が折り重なり、主力が続々とチームを去っていく。
高校生からマリノスひと筋のゴールキーパー榎本哲也(33歳)、ブラジル人センターバックのファビオ(27歳)、右サイドバックの小林祐三(31歳)、チームの看板選手にして大黒柱でもあるミッドフィールダーの中村俊輔(38歳)、在籍9年の兵藤慎剛(31歳)らが、J1の他クラブへ新天地を求めたのだった。
レジェンド中村までがチームを去った
国内では一貫してトリコトールのユニフォームに袖を通し、クラブのレジェンドと認められる中村がジュビロ磐田へ流失した影響は、とりわけ甚大だ。38歳にして衰えを知らない技術はもちろん、チームの精神的支柱にもなってきた背番号10の穴は、どのような補強でも埋めることができないだろう。
かくも多くの主力選手が抜ければ、戦力ダウンは避けられない。自分たちの力が落ちただけでなく、彼らが移籍したクラブは戦力をアップさせたことになる。榎本は浦和レッズ、ファビオはガンバ大阪と、優勝争いを演じそうな強豪が選手層を厚くしたことも、マリノスにとってはマイナス材料だ。
扇原貴宏ら補強をしたものの…
中村らに代わる戦力として、フロントは他クラブからの補強や期限付きしていた選手の呼び戻しで、10人を新たに加えた。そのなかには日本代表経験のあるミッドフィールダーの扇原貴宏(25歳)や、ポルトガル人フォワードのウーゴ・ヴィエイラ(28歳)のような即戦力も含まれている。
ただ、これだけ選手が入れ替わると、チーム作りには時間がかかる。不確定要素を抱えながら、シーズン開幕を迎えることになる。
チーム始動後も去就が分からない齋藤学は…
1月16日のチーム始動後も、不安要素を抱えている。中村とともに攻撃を牽引し、昨年はリーグのベストイレブンに選ばれたミッドフィールダー齋藤学(26歳)が、契約を更新していないのだ。国内の他クラブからオファーが届いているこのドリブラーには、ヨーロッパのクラブへの移籍も模索している。
もし斎藤まで失うようなことがあれば、攻撃のスケールダウンは避けられない。そうかといって、他クラブから選手を補強するのは難しい。
J2へ一度も降格したことのない名門の今後は?
93年のJリーグ開幕を飾った10クラブのひとつであり、鹿島アントラーズと並んでJ2リーグへ一度も降格したことのない名門は、J1リーグ25年目のシーズンをどのように迎えるのか。揺れ動くマリノスから、まだまだ眼が離せない。