トヨタの北米100億ドル投資表明は「トランプ次期大統領対策」なのか

トランプ次期大統領のツイッター攻撃対象にトヨタも名を連ねたことで、自動車業界をはじめとした日系企業に衝撃が広がっているという報道が流れている。確かに従来の常識が通じない相手ではあるが、大統領就任前は単なる「つぶやき」に過ぎないのにどうしてこれだけ騒がれるのだろうか。

トランプ次期大統領のツイッター攻撃対象にトヨタも名を連ねたことで、自動車業界をはじめとした日系企業に衝撃が広がっているという報道が流れている。確かに従来の常識が通じない相手ではあるが、大統領就任前は単なる「つぶやき」に過ぎないのに、どうしてこれだけ騒がれるのだろうか。

  

トヨタが今後5年間で北米に100億ドルの投資を表明

フォードがメキシコ新工場建設を撤回し、FCA US(フィアット、クライスラー、アルファロメオ、ジープ、アバルト)もアメリカの工場への10億ドルの投資を表明したことで、「口撃」を封印し、感謝の意を伝えたトランプ氏。

  

これに対し、トヨタの豊田章男社長も9日(現地時間)、北米国際自動車ショーにおいて、

カムリは1982年に初代が開発されて以来、トヨタの基幹車種として、私たちにとって、特に米国でクルマの開発、生産、販売に携わる約13万6,000名のトヨタのメンバーにとって、非常に重要なクルマであり続けてきました。

  

私たちトヨタがこれまでの60年間で米国に220億ドルを投資してきたのはなぜか。 そして、今後わずか5年間でさらに100億ドルを米国に投じる予定なのはなぜか。 このカムリというクルマは、その理由の一つです。

  

とスピーチした。つまり、今後5年間で100億ドルもの投資を行うと表明したことになるが、このスピーチを「トランプ氏のツイッターに応じた」と報道する論調が目立つ。実情はどうなのだろうか。

    

チームワークがあったから、30年以上米国で生産してこられた

米国でのエースといえる新型カムリを披露した豊田章男社長は、今後5年間で100億ドルの投資を表明

「カムリを15年連続で米国のベストセラー・カーにしてくださった、何百万ものお客様に、深く御礼申し上げたいと思います。ただ、これを当然のことだとして、漫然と受け止めることは許されません。 だからこそ、この新型カムリを世に送り出したいのです。(中略)

  

米自動車ウェブサイトCars.comにおいて、カムリは、あらゆるメーカーが生産するあらゆるクルマの中で「最もアメリカンなクルマ」との評価をいただいております。お客様に広く知られていることかどうかは分かりませんが、ケンタッキー州ジョージダウンにあるトヨタ最大の工場で働く7,700名の従業員一同は、大変誇りに感じていると思います。もちろん私もです。

  

今この瞬間も、ケンタッキー工場では約1分に1台、カムリが生産されています。 こうしたチームワークがあるからこそ、トヨタは米国で30年以上にわたり、2,500万台以上のクルマを生産してこられたのです。このことにただただ驚嘆を禁じえません。」

  

豊田社長はこのようにスピーチを続けている。「今後わずか5年間でさらに100億ドルを米国に投じる予定なのはなぜか」という点については今までの実績を強調したうえで、今後もその姿勢は不変だというのを言外にじませている。

 

「口撃」に応じて100億ドルを手土産にしたわけではない

しかし、トランプ氏の「口撃」から僅か数日で100億ドルもの手土産を持って北米国際自動車ショーに出向くわけがない(豊田章男社長の北米国際自動車ショーへの登場は例年どおり)。額が巨大過ぎるだけに、事前から準備されていた内容を発表したと考えるのが自然ではないだろうか。

  

実際にトヨタの100億ドルはクライスラーの10倍に達する。100億ドルの詳細は不明だが、工場への投資だけでなく、自動運転技術やEV、FCVなどの次世代エコカー関連も含まれていると予想される。

  

また、トヨタは、米国で電子制御スロットルの制御問題(いわゆる暴走問題)で濡れ衣を着せられそうになったこともあり、公聴会にも立ったことのある豊田章男社長なら、スピーチの「言い回し」くらいは変えたかもしれない。

  

注視すべきは北米自由貿易協定の見直し

さて、本当に注視すべきは、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しであり、自動車業界だけでなく幅広い日系、そしてアメリカ系企業に影響を及ぼすとされている。

  

大統領に就任すればより議会の目も厳しくなるはずで(誰も分からないだろうが)、GMやフォード、クライスラー(FCA)という米国ビッグ3の業績が人件費などの増加で中・長期的に下降すれば、トランプ氏の政策も、方向転換があるかもしれない。

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