佐川急便とフジテレビの問題に共通することは
宅配便大手の佐川急便東京営業所で、駐車違反の身代わり出頭があったとして、これまでに、犯人隠避や同教唆容疑で佐川急便社員ら計34人が逮捕および書類送検されました。
この事件を聞いてまず思ったことは、逮捕あるいは送検された人たち自身に悪いことをしている認識がほとんどなかったのではないだろうか、ということです。なぜなら、管理にうるさい一部上場企業の東京営業所というひとつの職場で、これだけ大量の人間が逮捕、送検されるというのは、普通なら考えにくいからです。彼らにとってはせいぜい、法定速度を5キロ上回った程度の認識だったのではないかと思えてしまいます。
さらに、ここに来て同じような事件が最近もう一件。フジテレビの報道記者が、暴力団員が車を購入する際に名義貸しをしていたと。なんでも、この記者は暴力団関連取材をする中で知り合い、複数回にわたって接待を受けるなどして懇意になったと言います。このケースでも記者は、食事を一緒にするぐらい問題ないだろうから始まり、名義貸しだったら個人間のやりとりだし大したことじゃない、ぐらいに考えたのではないでしょうか。
「慣れ」から来るコンプライアンス違反
佐川急便の事件も、フジテレビの事件も、一言で申し上げれば単純にコンプライアンス違反という事象です。コンプライアンスとは直訳すれば「法令遵守」。つまり法を守るということですから、これに反することは常識で考えて「やってはいけないこと」であるとの判断が働いて当たり前なのですが、それがそうはならかった訳です。ふたつの事象の根底にある共通項として見えるのが、業界ごとに特有の「慣れ」というものの存在です。
佐川急便の件で言えば、宅配業者の運転手にとって駐車違反など取るに足らない交通違反ではないのかと。車の運転を扱う企業にとっては、安全運転への注意喚起はしつこいぐらいに刷り込まれる職場環境であっても、駐車違反はそれがイコール事故には直結しないという認識故にあまりに軽く扱われてしまいがちなのは想像に難くないところ。それにより、コンプライアンスという認識が希薄になっていたのではないか、と思えてしまうのです。
フジテレビの件は、取材する側とされる側という関係の繰り返しの中で、いつしか親しい間柄になってしまう。これは、私の記者経験、広報担当経験からも実感あることです。しかし相手は普通の人は接点を持つことのない警戒すべき反社会的存在です。初めは注意深く接していても、会うごとに関係は個人的感情に流れていき、警戒心は自ずと解かれて特殊な人が普通に思えてしまう。さらに接待を受けた恩義などあれば、他人に迷惑が掛かることのない依頼なら、応じざるを得ない気持ちになっても不思議のないところです。
どの業界でも起こりうる違反事例だ
コンプライアンスの限界点は、「常識」が判断する平常の領域と禁断の領域との分かれ目です。ところがその限界点を判定すべき「常識」が、業界ドップリの「常識」にすり替わった時にもコンプライアンス違反は起きるのです。その「常識」判断が業界特有あるいは従事業務特有の日常性の中で埋没して、一般人が当然持つべき「常識」との間に知らず知らずに乖離が生じていく。これが今回の両事件のようなコンプライアンス違反事象の正体であると私は考えます。
この手のコンプライアンス違反は、言ってみれば業種によって現れ方は異なるものの、どこの業界でも起こりうる違反事例であるのです。一般「常識」が業界特有の「慣れ」に上塗りされて見えにくくなっていく、これはコンプライアンス管理上における重大な盲点とも言えるでしょう。年末に起きた2つの事件を機に、もしや見過ごされているかもしれない、自社における職種ごとの「常識」との乖離チェックを心がけたいところです。
★参考記事★
組織マネジメントガイド「コンプライアンスは組織存続の必須条件」
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