【電通過労死問題で考える】染み付いた社風を変えることは可能なのか

若手社員の過労死自殺を機に、全国一斉に厚労省の強制捜査が入り労働環境改善にとどまらない社内改革までもが求められる展開となった電通。染み付いた社風を変えることは可能なのか。組織マネジメントの専門家が解説した。

厚労省にブラック企業の烙印を貼られたに等しい

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「電通鬼十則」を社員手帳から消すことも決めた

若手社員の過労死自殺を機に、全国一斉に厚労省の強制捜査が入り労働環境改善にとどまらない社内改革までもが求められる展開となった電通。当局がここまで思い切った行動に出た理由は、過去にも同様の事件があり、その後も度重なる是正勧告があったにも関わらず、改善の兆しすらなく今回の件に至ったという経緯に他なりません。

  

裁判所からの差し押さえ令状が必要な強制捜査は、言ってみれば電通を「容疑者」とみなしての対応ということになるのです。まさしくブラック企業の烙印を、当局によって貼られたに等しい処分でした。様々な業種でブラック労働環境というものが事あるごとにクローズアップされ叩かれている昨今にあり、広告業界で世界一の売上規模を誇る超大企業の電通で、このような状況がなぜ放置され続けてきたのでしょうか。

  

長く悪習を変えられなかった元凶は?

思い起こせば私が就職活動をしていた30年以上前にも、同業企業のリクルーターが業界の常識として「朝の電通のトイレは臭い」と言って、そのモーレツ営業ぶりを揶揄していました。今回の問題は、実は根深いという事。夜遅くまでの業務に加えて連日深夜に及ぶ取引先接待。労働時間概念が希薄な文化は、30年以上も前から「朝のトイレが臭い」という表現で、過酷な労働環境という業界内でも異質な実態として指摘されていたのです。

  

長きにわたってこのような悪習を変えることができなかった元凶は、電通の「社風」以外にありません。夜遅くまで働いた者が偉い、昼も夜も仕事とプライベートの区分けもなく会社に貢献するのが当たり前、といったことを社内の常識としてきた「社風」です。

  

当局の強制捜査を受けて電通は、社長の労働環境是正メッセージと共に「法定外月間を最長45時間とする」「全館22時消灯」を社内に徹底。さらには悪しき社風の根源とも言われる「電通鬼十則」を社員手帳から削除することなども決め、粛清に向けて全社を挙げて動き出したとの報道がありました。しかし、長年蓄積され、染み付いた社風や文化がそんなにも簡単に変えられるものなのでしょうか。

  

手間を要する「ソフトの4S」改革を愚直に進めよ

組織の問題点を改善するためのフレームワークに「組織の7S」というものがあります(詳細は、マネジメント・ガイド参照https://allabout.co.jp/gm/gc/408226/)。「組織の7S」は簡単に手をつけられる「ハードの3S」と、変革には時間と手間がかかる「ソフトの4S」からなり、社風や文化はまさに変革は難攻不落の後者「4S」に属するStyleにあたります。

  

7S
組織の問題点を改善するためのフレームワークに「組織の7S」

  

今般、強制捜査後に電通が手をつけた上記諸ルールの変更等は、「ハードの3S」に属する社内制度などを指すSystem部分の改革にあたります。改革がここで終わってしまったのでは恐らくまた社風には何の変化も及ぼすことなく、何年か後に同じような悲劇が繰り返される可能性は否定できないでしょう。今電通がやるべきことは、「ハードの3S」に絡む改革にとどまることなく、そこに関連しながらも手間と時間を要する「ソフトの4S」改革をも愚直に進めることなのです。

  

具体的には、Skill改革として管理者の労働時間管理Skillや従業員の健康管理Skillを向上させる仕組みを動かすとか、Staffの面で全社員対象として業務と労働時間に関する考え方の研修を定期的に実施するなど、絶えることのない組織風土改革活動を続ける以外にないのです。もちろん一番大切なことは、「7S」の中央に位置するShard Valueすなわち企業の価値観として労働環境の乱れを決して許さないという姿勢を、経営者自らが社内に対して訴え続けることでしょう。

 

社風改革に継続して取り組めるのかが鍵に 

今回の件を一過性の事件で終わらせることなく、経営陣が先頭に立って上記のような社風改革に継続して取り組めるのか、電通が真にブラック労働環境から足を洗えるか否かは、そこにかかっていると言えるでしょう。

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