2016年12月1日、トヨタが「EV事業企画室」を設立した。ハイブリッド(HV)やFCV(燃料電池車)などに注力し、EV(電気自動車)には後ろ向き……と思われてきたトヨタだけになぜEVに参入するのだろうか。
EV参入はトヨタグループの総力戦で挑む
2016年11月17日、「EV開発を担う社内ベンチャーを発足」というリリースがトヨタ自動車から配信された。この新ベンチャーは、トヨタ、豊田自動織機、アイシン精機、デンソーから各1名、計4名が参加する直轄組織として、2016年12月に発足するとしていたが、11月30日には、「EV事業企画室」という名称で豊田章男氏が統括する社長直轄の事業であることが発表されている。
さらに、チーフエンジニア(主査)には、現行プリウス、新型プリウスPHVの主査である豊島浩二氏が就く。私も何度かプリウス、新型プリウスPHVの取材時にインタビューをさせていただいたことがあるが、トヨタがEVを作るのなら豊島氏が適任なのは間違いないだろう。
日産も苦労しているEVの販売状況
「EVは短距離用」としてきたトヨタ。なぜここに来て、宗旨替えとも取れるEV開発に進むのだろうか? 日産リーフが度重なる値下げをしてきた流れからも分かるように、日本ではEVの人気はまだまだ高くない。
日産やBMWなどが「1日の皆さんの航続距離(平均)は、EVで十分まかなえますよ」と宣伝したところで、ユーザーは笛吹けども踊らずで、飛びついてこない。十分な充電量(航続可能距離)を確保できると言われても、頭によぎるのは「電欠」。しかも、大容量のバッテリーを積むほど価格は高くなる。普通の自転車よりも電動アシスト付自転車が割高になるのと似ているように。
しかし、先進国はもちろん、世界最大の自動車大国である中国を含めて世界中で燃費規制(CO2排出量)が厳しくなる。欧州のように規制を達成できないと多額の罰金が科せられるようになるなど、走行中にCO2を排出しないEVへの優遇措置はハイブリッドなどよりも相対的に高まる一方だ。
バッテリーの進化やインフラ整備が後押し
航続可能距離の問題もバッテリーの進化により、現状よりも10〜20%航続可能距離が伸びるフェーズに到達しつつある。トヨタも11月24日に「リチウムイオン電池が充放電する際の電解液中のLiイオンの挙動を観察する手法を世界で初めて開発した」と発表している。ほかの自動車メーカーの電池担当者からも「ここ数年内に電池の性能が向上する」と聞く機会が多く、電池の性能向上もトヨタの背中を押した理由のひとつにあるかもしれない。
また、日本国内では充電スポットがサービスエリアや商業施設などで着実に増えているが、欧州や中国などでも今後増えていく見込みでインフラも整備されていく背景もあるだろう。
トヨタグループ総力を挙げてEVを開発するとなれば、EVの一種ともいえるFCV(燃料電池車)の行方も気になる(なにせ水素ステーション建設の方がコストがはるかにかかるからだ)。
トヨタはどんなEVを見せてくれるのか
一方、走行中のCO2排出量はゼロでも、充電した電気が化石燃料由来であれば、結果的には大気に放出される二酸化炭素は増えてしまう「ウェル・トゥ・ホイール(井戸から車輪まで)」の課題も、とくに原発がほぼ止まっている日本では解決できていない。
日産がリーフの販売で苦労した中、トヨタが今参入するのには、アメリカのテスラが販売を伸ばしているのは「高級EV」だからという要素もある。実は以前から官公庁などのお役所向けにEVを手がけてきたトヨタは、どんなEVを一般ユーザーに「再提示」するのか。マツダやスバル、スズキなどとの提携効果、あるいはBMWとの提携でEVがどうなるかも注目だ。