この件は多く報道されると同時に、セレブリティーやYouTuberも取り上げました。その中で目立ったのは、「そもそも女性だけの賞レースがあるのは逆差別ではないか」という意見です。
『M-1グランプリ2025』(以下、M-1)の審査員を務めた経験がある立川志らくさんやタレントのフィフィさんらが、「スポーツなどの場合は体力差があるから男女別は分かるが、お笑いはそうではない。女性だけの大会をやるのは違和感がある」という意見を示しました。
この騒動を見ていて、私は大学の理工系学部の女子枠への反発を思い出しました。今、女子のみが参加できる「選抜」は批判される傾向があります。
今回は、なぜお笑いの賞レースで女性が少ないかという問題を分析しながら、この「女子枠」問題について考えてみたいと思います。
女性漫才師が「テレビの主役」だった1980年代
少し昔の話になりますが、1980年代に漫才ブームがありました。その頃、漫才コンビの今いくよ・くるよが漫才のつかみで「女の漫才師はぎょうさんいるけど」と話していましたが、当時は女性漫才師がたくさんいて、テレビで見ない日はありませんでした。
自虐ネタを得意とした今いくよ・くるよ、毒舌が鋭かった春やすこ・けいこ、そしてけんか風の漫才で笑わせたハイヒールなど、多くの女性コンビもいました。
漫才は話芸や演技力で見せるもので、これは女性が得意なジャンルです。また、ネタ作りもクリエイティブな作業なので、女性が男性に負ける要素はありません。
『M-1』審査員の海原ともこさんは今でもテレビで漫才を披露しますが、たわいもない女性同士のおしゃべりが実に面白く、その優れた話芸で観客を魅了します。
そのように、かつては女性の芸人もたくさん活躍していたのに、どうして今は少数派になってしまったのでしょうか。それには構造の問題があります。
「ネタを見てもらえない」Aマッソも痛感した劇場の構造
さて、芸人はどうやって注目を浴びていくのでしょう。多くのお笑い事務所には若手芸人のランキングがあり、その順位を競うライブがあります。そこで勝ち抜いていくと、テレビのオーディションを受けるチャンスなどが与えられます。このランキング戦は観客の投票で決まることが多いです。
ところがこのランキング戦は女子に不利なのです。
以前、朝日新聞のWeb記事で、お笑いコンビのAマッソが「劇場に来るのは若い女性のお客さんたちなので、自分たちのネタを披露しても見てくれない感触があった。そのため、賞レースで勝ち抜いていった」という旨を話しているのを読みました。
女性の客の多くは男性コンビのファンです。そこにAマッソのようなかわいらしい女性2人が現れてネタをやっても、興味を持ってくれないというわけです。劇場に来る観客はほとんどが若い女性で、彼女たちは芸人をアイドル的に見ることも多いため、男性芸人の方がファンを獲得しやすく、注目されやすいのです。
まず、このような構造があるため、女性芸人はなかなか事務所の若手ランキングで上位にいけないのです。
ある男性の芸人は結婚したことを隠していたそうです。「自分たちと付き合いたいと思って劇場に通ってくる女性ファンもいるから」という理由で。
そのように、劇場の客は若い女性が中心なので、かわいらしい女性2人が出て行ってネタをやっても、興味を持ってもらえないこともあるのです。
劇場でうまくいかないとすると、賞レースで頑張るしかありませんが、さあ、この賞レースも女性には不利な理由があります。
次回はハイヒールのリンゴさんが語る「『M-1』で女性芸人が勝てない理由」を紹介します。
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「女子枠」は本当にズルいのか。粗品発言から読み解く、『M-1』と最難関入試に潜む“見えないルール”
この記事の執筆者:佐藤れん プロフィール
受験業界に身を置く教育ライター。専門はジェンダーと大学受験。かつては大学の非常勤講師をしていたことも。



