台湾有事のどさくさに「尖閣」も奪われる? 防衛専門家が警告する、中国“同時侵攻”の悪夢

中国の本命は台湾ですが、隙を見せれば尖閣諸島も「低コスト」で奪いに来ます。防衛専門家・高橋杉雄氏が読み解く、警戒すべき「武装漁民」の上陸シナリオと、台湾有事のどさくさに紛れた「同時侵攻」の可能性とは?(画像出典:PIXTA)

画像はイメージ(画像出典:PIXTA)
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日本と中国との武力衝突には、2つの発火点があります。「台湾」と「東シナ海」です。中国にとっての本命はあくまで台湾であり、尖閣諸島のために無駄な戦力を使いたくないのが本音です。

しかし、だからといって安心はできません。もし日本が隙を見せれば、彼らは「低コストで奪える」と判断して行動を起こすでしょう。さらに恐ろしいのは、台湾有事の混乱に乗じて尖閣を同時に攻めるシナリオです。

防衛省シンクタンクの第一人者・高橋杉雄氏の著書『日本人が知っておくべき自衛隊と国防のこと』(辰巳出版)から、中国がどのような計算で動いているのか、そして日本はどう備えるべきかを紹介します。

狙いは台湾か、尖閣か。中国が天秤にかける「2つの戦場」

中国との武力衝突には、日本との関係では2つのシナリオがありえます。その1つが東シナ海で、もう1つが台湾です。まずは東シナ海問題について見ていきましょう。

東シナ海問題には2つの要素があって、1つが尖閣諸島、もう1つがガス田です。

このうちガス田については、排他的経済水域(EEZ)問題とも密接に絡んでいます。その点でたしかに大きな問題ではあるのですが、最終的には経済的な交渉で着地点を見いだすことができる可能性もあります。

そしてもう一方の尖閣諸島は、元々の日本固有の領土に対し、台湾が後になって領有権を主張してきたものでした。

中華人民共和国は、「台湾は中国の一部」とみなしていますから、台湾が主張すれば中国も主張することになります。そこで日中の対立事項となったのです。

EEZ問題に近いエリアなので紛らわしいですが、根はまったく別のものです。ただし、中国にとってあくまで本命は台湾です。尖閣諸島のためにリソースを使いすぎて、台湾に振り向ける力がなくなってしまったら本末転倒です。

ですので、日本がきちんと抑止力を高めていれば、中国に「尖閣諸島を獲得するためには、実戦という高コストが生じる」と思わせることができ、理屈上は抑止ができるのです。

尖閣諸島有事のシナリオ

日本では、2010年に発表された防衛大綱で、動的抑止という概念を示しました。具体的には、東シナ海域周辺でのISR(警戒・監視・偵察)を増やし、日本側には隙がなく、何をしてもこちらは把握できると中国に教えることで、既成事実化や探索行動が難しくなることを狙ったものだと考えられます。

ところが、2012年の尖閣国有化を口実とし、中国は政府公船を継続的に送り続け、領海や接続水域に侵入してくるようになりました。

この一連のプロセスの中で、日本側は物理的な隙を一切見せていません。しかし中国は尖閣諸島を諦めるのではなく、現状変更のギアを一段上げてきたのです。

そのため2013年の防衛大綱では、グレーゾーン抑止をどう立て直すかが大きなテーマになりました。そこで示された方針は、相手が行動レベルを上げたら、こちらも行動レベルを上げるという明快なものでした。(※グレーゾーンとは、平時と有事の中間にある緊張状態のこと)

これはFDO(Flexible Deterrent Options)というもので、相手の行動に合わせてこちらも自衛隊の訓練や事前展開、日米共同訓練などを実施することで、相手のエスカレーションにしっかりついていって抑止するという方法論です。

尖閣諸島について懸念されるシナリオは、武装漁民が上がってきて、そこから軍事的な衝突にエスカレートしていく、というものです。

一方で、中国の本命は台湾ですから、それに先立って尖閣で無用なリスクを冒そうとするとは思えません。リスクフリーなら話は別ですが、こちらが隙を見せなければ無闇に攻めてくることはないでしょう。それだけ、こちらが対策をきちんと作っていくことが大事だということです。

ただし、台湾海峡有事が起こった際に、中国軍が同時多方面展開で尖閣占有行動に出る可能性は捨て切れません。
日本人が知っておくべき 自衛隊と国防のこと
日本人が知っておくべき 自衛隊と国防のこと
この書籍の執筆者:高橋杉雄 プロフィール
防衛省のシンクタンクである防衛研究所防衛政策研究室長。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。専門は国際安全保障、現代軍事戦略論、核抑止論、日米関係論。日本の防衛政策を中心に研究・発信する、我が国きっての第一人者。ウクライナ戦争勃発以降、テレビをはじめとした様々なメディアで日々解説を行っている。著書に『日本人が知っておくべき自衛隊と国防のこと』(辰巳出版)など。
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