男子校は人気復活も、女子校は微妙。「桜蔭以外は数学の進度が遅すぎる」伝統校の弊害とは

中学受験で男子校人気が復活する一方、女子校人気はなぜ微妙なのか。時代にそぐわなくなった女子校の実態と、中学受験の専門家が女子に共学を薦める理由を解説する。(画像出典:PIXTA)

画像はイメージ(画像出典:PIXTA)
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中学受験率は高い推移を保っています。

その中でコロナ禍以降、男子校の人気が復活しています。教育専門メディア・リセマムで2025年4月4日に公開された記事「プロが分析!志願者数増加率から見る人気の学校【中学受験2025】」の中で、過去問(赤本)で有名な声の教育社の三谷潤一さんも「男子校は軒並み難化しており」とコメントしています。

例えば、港区の男子校、高輪。学校が「何一つ新しいことをしていません」とコメントをしているように、新興校のように目新しいことをしていません。昔も今も「国語、理科、社会、数学、英語」の5教科の学力を伸ばしていく指導をしています。スパルタ方式で勉強はさせませんが小テストで合格点をとるまで補講を行います。

このスタンダードな基礎学力を伸ばす教育が、再評価されています。男子校は古くから「社会に出て活躍できる人材を育てる。そのためにはまず基礎学力が必要」という方針の教育をしてきました。この部分が再評価されていると言えましょう。

女子には女子校ではなく共学を薦める理由

一方で、女子校の人気は復活しているとは言えません。特に横浜地区の女子校は苦戦をしています。先に引用したリセマムの記事でも「神奈川県に顕著な傾向があり、共学人気が高く女子校の人気が下がり気味」と分析されています。

2014年の横浜雙葉は偏差値61、横浜共立は60でしたが、2025年現在、横浜雙葉は51、横浜共立は49です。かつてこれらの女子校に進学していた学力上位層は、今は東京の学校へ進学しています。

他方、東京では、跡見や三輪田が偏差値をあげていますが、理由は偏差値50未満の女子校が少なくなっているからです。偏差値50未満の女子校の多くが共学化していきました。最近でも武蔵野市の藤村女子が2027年より共学化し、「吉祥寺湧水」と校名を変更することを発表しました。その中で女子校を続けている跡見と三輪田に、女子校志向の受験生が殺到しているのです。

保護者の中には「偏差値が低い学校ならば女子校がいい」と考える方もおられます。2023年にかえつ有明で複数の男子生徒が女子生徒を盗撮したという事件がありました。このように、中堅の共学だと男女のトラブルが起きやすいと心配する保護者も少なくありません。

しかし、例えば同じ共学でも駒込は生活指導がしっかりとしており、こういったトラブルは起きにくい環境です。共学といってもさまざまですが、女子校の方が安心と思われる保護者も一定数います。

筆者は志望校選びのアドバイスをする時に、男子に男子校を薦めることはありますが、女子には共学に行くように促しています。その理由は女子校の教育は時代にそぐわないように見えるからです。

そして、それが女子校全体の人気低下の理由でしょう。

桜蔭以外の女子校はどこも数学の進度がゆっくりすぎる

現在、理系教育の重要度が叫ばれています。その中で、立教新座や中央大学附属横浜などのMARCHの付属校も理系教育に力を入れ、理系率が上がってきました。一方で、女子校ではその変化に対応しきれていません。

難関国立大学や医学部に合格するためには、数学の先取り学習が必要になってきます。桜蔭のように例外はあるものの、明らかに女子校は共学や男子校よりも進度がゆっくりしています。

理系教育をうたっている女子校も数学や物理の授業の進度やレベルには疑問が残ります。中堅の女子校で理系教育をうたっている学校を見学しましたが、映画のセットのような「ラボ」が完備されており、そこでやっているのは海外から取り寄せたカラフルな爬虫類を育てるということでした。

その学校の先生が「うちは理系の探究学習に力を入れています」とおっしゃるので、筆者が「どんなことをされているのですか?」と聞くと、「沖縄まで海老の研究に行っている」とのことでした。「海老の何を研究しているのですか?」と聞くと、黙ってしまって会話は途切れました。沖縄に行くことが目的で、何をするかはどうでもいいのです。

なぜ、女子校の理系教育がいまひとつなのかというと、伝統校は教師の異動がほとんどないからです。20年、30年前の「女子校だから理系科目は緩くていいや」という時代に採用した教師が数学や物理を教えているから、なかなかアップデートできないのです。

理系の科目だけではなく、偏差値が低迷する女子校はカリキュラム全体がアップデートされていないところも多いです。アップデートするためには教師たちがまず勉強をする必要がありますが、それがなかなかできていないのでしょう。

男子校の場合、昭和の時代から「大学進学実績が全て」でした。そのため、常にカリキュラムを見直し、大学合格実績を伸ばすべく努力できる教師が採用されてきました。

一方で、女子校の場合、「中学から名門女子校に入れたらお嫁に行くのに有利になる」という発想のもと、学習面より生活指導や情操教育、教養を身に付けることを目的とし、それに合った教師が採用されてきました。

男子校の場合、もともと社会人養成を掲げ、理系教育に力を入れていたため、優秀な先生がそろっているため、特に変わらなくてもいいという面もあります。ここに女子校と男子校の違いがあります。
 
今回はカリキュラム面での女子校のデメリットについて言及しました。次回は校則面でのデメリットを見ていきましょう。

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名門女子校の感覚は昔のまま? 女性教師に嫌われると「ママまで追い詰められる」理不尽な実態

この記事の執筆者:四谷 代々 プロフィール
塾の偏差値表やパンフレットには載らない、学校ごとの「カラー」や「本当の校風」を熟知する中学受験関係者。しがらみのない立場から「塾や学校が親に絶対に言わない不都合な真実」を発信する。
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