「受験組」と「非受験組」の教室カースト。“偏差値”で人間を格付けし合う子どもたち

いじめの認知件数が過去最大の73万件を超える中、新しい形のいじめが増えています。受験ブームの中で生まれた塾のランクや志望校による格付けが、子どもたちの間で新たなマウント合戦を生み出し、いじめにつながっているのです。(画像出典:PIXTA)

画像はイメージ(画像出典:PIXTA)
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いじめの認知件数が過去最大の73万件を超える中、ノンフィクション作家の石井光太さんは、その形態は大きく変わっていると警笛を鳴らします。

石井さんが指摘する、いじめを加速させる「4つの環境要因」。その一つが、過熱する中学受験ブームを背景とした「新しいマウント合戦」です。

教室に引かれた「受験組」と「非受験組」という明確な線引きが、子どもたちに何をもたらしているのか。著書『傷つけ合う子どもたち 大人の知らない、加害と被害』(CEメディアハウス)より抜粋し、塾のランクや偏差値で人間を格付けし合う子どもたちの実態と、大人の責任について考えます。

受験ブームの中の激しいマウント

いじめ増加の環境要因の一つが、子どもたちの間の「新しいマウント合戦」です。子どもたちのマウントには様々な形がありますが、ここでは現在の受験ブームから引き起こされるいじめを取り上げましょう。

近年、首都圏を中心として中学受験が活気を帯びており、「第三次中学受験ブーム」と呼ばれる現象が起きています。図4を見るとそれがわかると思います。
図4  過去39年間〈1986 〜2024年〉の 私立・国立中学受験者数の推移
図4  過去39年間〈1986 〜2024年〉の私立・国立中学受験者数の推移
首都圏では5人に1人が中学受験をするとされています。23区内の中でも山手線内側エリアの学校では、6年生の7〜8割が受験をするといったことも珍しくありません。

中学受験を希望する子どもは、小3くらいから進学塾に通うのが一般的です。高校受験や大学受験と違うのは、保護者が受験することを決め、塾や志望校を選び、付きっ切りでサポートすることです。

そして保護者も塾の先生も、子どもに勉強をさせるため、次のような煽り文句を口にします。

「今がんばらないと一生がんばれないよ」
「ここを乗り越えられるかどうかで人生が決まるよ」
「公立中は学級崩壊しているし、いじめられるよ」

そして塾の中では、テストの点数によって明確にクラス分けがなされ、上位の子どもは「優秀」であり、そうでない子は「ダメ」だという評価が下されます。

ややこしいのは、学校でもクラスの中で受験組が大半を占めると、そうした価値観が教室にまで広がることです。たとえば、5年生くらいになれば、休み時間には次のような会話が飛び交います。

「Eは○○塾のAクラスなんだって。マジでレべチ(桁が違う)。でも、Fの奴は最近BクラスからCクラスに落ちたんだって。クソ笑える。ザコっしょ」

「おまえ、受験しないの? 公立の先生とかみんな病んでて学級崩壊してるらしいから、受験しないとマジ人生終わるよ」

「あいつ、成績が悪くて志望校を○○に落としたんだってさ。あんなとこしか受けられねえって、きしょく(気色悪く)ね?」

子どもたちは進学塾のランク、模試の結果、志望校によって、ランク付けしてマウントを取ります。極めて狭い価値観の中で、相手より自分が勝っていることを誇示し、下位の子を見下す。

おそらく子どもたちは塾や保護者の狭い価値観をそのまま受け取り、クラスの中でマウントを取っているのでしょう。日々そうした価値観にさらされていれば、彼らはそれが正しいと思い込む。

しかし、子どもによって勉強が得意な子もいればそうでない子もいますし、また学力が伸びる年齢にも個人差があります。そうしたことを無視して、先のような言葉が飛び交えば、傷つく子どもが続出することは想像に難くありません。

中学受験に留まらず、社会の価値観が狭まれば狭まるほど、子どもたちはそれでマウントを取ろうとするものです。それが新たないじめを生んでいる実態があるのです。

いじめの正体

こうした事例を目の当たりにすると、同じ「いじめ」と呼ばれる行為であっても、自分たち親世代が子どもだった時代と今では、まったく別物になっていると感じた人もいるのではないでしょうか。

かつてのような、気性の荒い子が憂さ晴らし的に誰かをいじめるということがなくなったわけではありません。

ただし、それ以上に大人からは「真面目」「普通」と見なされるような子どもたちが、同調圧力、格差、価値観の画一化の中で、無意識に他人を傷つけることが増え、それがいじめの認知件数を押し上げる一因となっているのです。

静岡県の中学校に勤める先生は言います。

「最近、いじめで指導をすると、生徒たちは80%以上の確率で胸を張って反論してきます。自分は正しいことをしたはずなのに、『なぜ怒られなければならないんですか』といった論調です。

そういう子は、自分が正義の側に立っていれば、何をやってもいいと思っている。事実を事実として言って、何が悪いんだということです。極端に言えば『バカにバカと言って何が悪い』という理屈です。そこに、言われた人がどう感じるかという思考が抜け落ちてしまっている。

難しいのは、口頭で注意したり、説明したりしたところで、なかなかこうした思考回路が変わらない点です。私たちはいろんな体験の中で、事実は事実だけど、それを言うのか言わないのか、あるいはオブラートに包んだ表現にするのかというところにコミュニケーションの神髄があると学んでいくものです。

でも、その大切さを理解せず、スキルも磨かないまま人と付き合っているので、どうしてもトラブルが多発してしまうのです」

こうした現状は、保護者もしっかりと認識しておくべきでしょう。

保護者にとっても、クラスの調和を守ろうとする子、受験勉強に励む子は、「がんばっている立派な子」と目に映ります。また、親が子どもにできるだけ良い物を持たせてあげたいという気持ちも理解できます。

しかし、彼らがある一面から人を評価し、非常に狭い価値観に基づいた正論を掲げてものを言えば、本人は意図していなくても、相手の心をえぐりかねません。

だからこそ、いじめが起きて、学校から連絡があった時、保護者の多くはこのように思うのです。

「うちの子は悪気があってやったんじゃありません」

この言葉が出てきたということは、保護者が子どもを取り巻く状況をきちんと把握していないということです。いじめを発見することにおいても、加害児を指導することにおいても、情報をアップデートすることが不可欠なのです。
傷つけ合う子どもたち 大人の知らない、加害と被害
傷つけ合う子どもたち 大人の知らない、加害と被害
この書籍の執筆者:石井光太 プロフィール
1977年東京都生まれ、作家。 著書に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『レンタルチャイルド』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』など多数。
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