5万円のバットvs数千円のバット…道具で決まる子どもの序列。無意識に生まれる「階級社会」

バットの値段で子どもが評価される。スマホの機種でステイタスが決まる。いじめ認知件数が過去最大を更新する中、経済格差が子ども世界に階級社会をもたらしています。石井光太氏の著書から、格差といじめの関係をひも解きます。(画像出典:PIXTA)

画像はイメージ(画像出典:PIXTA)
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いじめの認知件数が増え続けています。文部科学省の2023年度の統計によれば、小中高校や特別支援学校でのいじめの認知件数は過去最大の73万件超。

ただし、数字の増加以上に気になるのは、いじめの形態そのものが変わってきたということです。ノンフィクション作家の石井光太さんは、「昔よりも細分化し、見えづらい形で多発している」と言います。

では、そもそもなぜ、このような事態が起きているのでしょうか。

石井さんは、著書『傷つけ合う子どもたち 大人の知らない、加害と被害』(CEメディアハウス)の中で、子どもたちのいじめを加速させている背景に「4つの環境要因」があると指摘しています。それは、「同調圧力の高まり」「格差の拡大」「一面的な人物評価」、そして「新しいマウント合戦」です。

本記事では、この4つの中から「格差の拡大」に注目します。子どもの世界で起きている経済的な差が、いかにして無意識のうちに子どもたちを分断しているのか、本書より抜粋した内容を通じて、その実態を見ていきましょう。

「バットの値段で地位が決まる」子ども世界の階級分化

社会のグローバル化や長きにわたる景気の低迷によって、日本社会では格差が広がりつつあります。図3を見てください。これだけ家庭によって年収は異なるのです。
図3 年収別の人口割合(男女合計)
図3 年収別の人口割合(男女合計)
保護者の収入は子どものライフスタイルに直結しますので、この図はほぼそのまま子どものライフスタイルのいびつさと言い換えられるでしょう。中でも公立の小中学校では、持つ者と持たざる者の差は大きなものとなります。

問題は、現代では「持たざる者」の数が昔より増えており、それがそのまま子どもたちの格差として表れている点です。

子どもが少年野球をやっていたとします。昔はみんなが同じ価格帯のバットやグローブを持っていましたが、今は金額によって露骨な違いがあります。

お金のある子であれば、5万円前後する高機能バットを買ってもらって飛距離をぐんと伸ばすことができます。しかし、お金のない子であれば、数千円の金属バットしか手に入れられず、見た目も、打った時の打球音も、飛距離も違ってきます。

これを野球でのみ起きている現象だと考えるのは間違いです。最近、子どもたちの間で人気が上昇しているバドミントンの場合、ラケットとガットを合わせて高価なものは4万円以上しますし、卓球に至ってはラケットとラバーで5万円を優に超すこともあります。

子どもたちのコミュニケーションや娯楽のツールとなっているスマホも同様です。裕福な家庭の子であれば、20万円前後の最新のiPhoneを買ってもらえるでしょうが、そうでなければ保護者のお古か中古、あるいは無名のメーカーの格安スマホになります。

子どもたちの間では、何を持っているかでカッコいいか、ダサいかが決まります。そのスマホを使ってするゲームも、いくらお金をかけたかによってステイタスが変わります。

オンラインゲームの大半は無料でやることができますが、課金というシステムがあり、お金をかければかけるほど豪華なアイテムを入手することができる。そうすれば、同じゲームをしていても、お金を持っている子は強くてカッコいいキャラクターを操れますが、そうでない子はノーマルなキャラクターで遊ぶしかありません。

子どもたちの間で流行っている“推し活”においても同様です。推し活は、いくらお金と時間をかけたかによってステイタスが決まります。グッズを買う、投げ銭をする、ライブに行く、チェキを撮る……。経済的に恵まれた子どもであればあるほど、推し活においても高い地位を獲得することができるのです。

これ以外でも子どもたちの格差は挙げればきりがないほどです。

「外食する子/子ども食堂へ通っている子」
「学習塾へ通っている子/無料塾へ通っている子」
「電動自転車の子/普通の自転車の子」
「夏休みに短期留学する子/バイトで進学費用を稼ぐ子」……。

悪気なき言葉が凶器に……無意識の「格付け」

昔は子どもが持つものに関しては、そこまで高価格帯と低価格帯にわかれてはいませんでした。中間層が分厚く、それに合わせて価格設定がなされていた。しかし、今は子どもの世界でも、あらゆるものが価格別にランク付けされていたり、遊び方が大きく異なっていたりするのです。

そのような環境では、子どもたちは無意識のうちにお互いを格付けし合います。たとえ本人に差別をしている意識がなくても、お金のある子が「えー、おまえそんな古いスマホ持ってるの」とか「なんで課金してアイテムをゲットしないんだよ?」と言えば、相手を見下すことになりかねません。

これが1回、2回なら子どもも流せるでしょう。しかし、学校の持ち物から習い事、それに遊びに至るまであらゆることで毎日何回も蔑まれれば、言われた子にとっては立派ないじめです。

都内で少年野球の監督をしている男性は次のように話していました。

「子どもたちの持ち物の格差は日々感じています。遠征の用具で言えば、お金持ちの子どもはバット、グローブ、リュック、バッティンググローブ、サポーター、自転車など総額20万円くらいのものを身につけているのに、そうでない子は自転車を含めて3万円にも満たないのが現状です。

正直、大人の私からしても、見て見ぬふりができないくらいの差です。もはや殿様と足軽ですよ。しかもうちの地域は高所得家庭が多いので、8割の子たちは高級品ばかり身につけていて、『あのバットが飛ぶらしい』『あのグローブは超レアらしい』という話ばかりして次々に最新のものに買い替える。こうなると、お金のない家の子は、いくら野球が上手でも、チームにいること自体が面白くなくなってしまうんです」

これほどの格差があれば、恵まれた子どもたちに加害意識がなくても、恵まれない子どもたちが耳に入ってくる言葉の一つ一つに傷つけられるのは仕方のないことです。

こうした状況を踏まえて、学校やクラブの中には平等を徹底させるため「お弁当はおにぎりのみ」とか「用具はクラブが所有するものを使用すること」と決めているところもあります。

ただ、学校やクラブによって取り組み方にはまだまだ温度差がありますし、大人が規制をかけたところで、子どもが格付けをやめるとは限りません。格差がますます広がっていく中で、これは社会全体の課題として考えていかなければならないことでしょう。
傷つけ合う子どもたち 大人の知らない、加害と被害
傷つけ合う子どもたち 大人の知らない、加害と被害
この書籍の執筆者:石井光太 プロフィール
1977年東京都生まれ、作家。 著書に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『レンタルチャイルド』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』など多数。
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無意識の「格付け」が「加害」へと暴走する年齢のリアル
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