不登校児のために無償の学習塾を設立!「予算の壁」を打ち破った元校長の、助成金活用の知恵

不登校の子どもたちの「居場所」は増えていますが、「学習の場」は依然として不足しています。なぜ元校長は、学校の勉強でつまずいた子が無料で学べる独自の「学習の居場所」を設立したのか。その挑戦の背景と支援の形に迫ります。(画像出典:PIXTA)

なぜ元校長が不登校の子の「学習の居場所」を?(画像出典:PIXTA)
なぜ元校長が不登校の子の「学習の居場所」を設立?(画像出典:PIXTA)

横浜市の公立中学校で校長を務めていた齋藤浩司さんが、早期退職して始めたのは、不登校の子どものための「学習の居場所」でした。それが横浜市にある「菊名和み塾」で、現在、小中学生10名が在籍しています。

「居場所」はあっても「学習の居場所」がない

「不登校の子にとって必要なのは、まずは家から出て人と触れあい、リラックスできる場所だと考える人が多いんです」と、齋藤さんは語ります。

そうした、不登校の子どもが家の外で過ごせる場所である「居場所」は、あちこちにできています。菊名和み塾の設立を検討していた地域にも、同様の居場所はすでに存在していました。

「そういう居場所を見学したり、居場所づくりをしている人たちに話を聞いたりする中で知ったのが、『学習する場所がない』ということでした」

居場所は、不登校の子どもたちが共に過ごしたり遊んだりすることを主眼としており、そのための工夫はされているものの、学習する場所としての位置付けが弱いのです。算数の学習を望む子どもがいれば、部屋の片隅で大人が教えるといった状況でした。

そこで齋藤さんは、「それなら学習する場所として位置付けよう」と考えたのです。ただ、学習する場なら、いわゆる「学習塾」でもよかったはずです。菊名和み塾を始めようとする地域には学習塾がなかったのかと尋ねると、齋藤さんは笑いながら答えてくれました。

「いや、ありますよ。しかし、学習塾が始まるのは放課後の時間帯です。そういう時間に出かけていってたくさんの子たちといっしょに学習する気持ちもエネルギーも、不登校の子にはありません」

確かに、それができる状況であれば、そもそも不登校にはならないでしょう。しかし、そうした子どもたちにも学習したいという気持ちは存在します。その気持ちを支援する場としてこそ、菊名和み塾の存在価値があるのです。

仕事をしながら次のことを考えるのはイヤだった

齋藤さんが校長を辞めたのは2022年3月で、定年が1年後にせまった59歳のときでした。この時点で、菊名和み塾の構想があったわけではありません。

「学校外で何かやりたいとは思っていましたが、具体的なプランがあったわけではありません。大学院とか教職大学に行くとか、ゆっくり温泉にでも浸かりながら考えようかなと思っていました(笑)。ただ、仕事をしながら考えるのは中途半端でイヤだったので、スパッと辞めました」

仕事を始めたときの事務所にするためにワンルームのマンションを購入し、2023年4月に「一般社団法人とえはたえ」を設立します。この「とえはたえ」が運用しているのが、菊名和み塾です。

マンションを準備したときも、菊名和み塾の構想があったわけではありません。それが、どうして菊名和み塾のスタートにつながっていったのか、齋藤さんは次のように話します。

「マンションの部屋は毎日使うわけではありません。部屋を眺めていたところ、『4人か5人の子どもを受け入れるのにちょうどいい広さだな』と思い、『不登校支援のようなことができるのではないか』と考えました」

そこから前述のようなリサーチを始め、2023年5月に菊名和み塾をオープンするに至ったというわけです。実際に子どもたちがやってくるのは6月でしたが、生徒募集には元校長の肩書きが役立ったようです。

「校長時代の知り合いも多いので、区役所に説明に行ったら、『頑張ってください』と言われました。しかし、資金援助を受けられるわけではありません(笑)。学校も訪ねたし、地区の民生委員にも相談しました。そういう方々も校長時代からの顔見知りが多いので、協力には前向きでした」

そうしたつながりの中から、2人の子どもが菊名和み塾に入塾することになります。それも小学校の校長からの紹介だったそうです。

場所もあって子どもたちもやってきた。問題は、どういう「学習の居場所」にするかです。学校と同じような授業をしていたのでは、「居場所」にはなりません。
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不登校の子には学習のつまずきがある
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