政府は7日、過労死等防止対策白書を初めて閣議決定した。
白書は、2014年に成立した過労死等防止対策推進法において、国会で提出することが定められている。これに伴い、厚生労働省は2015年12月~16年1月に、企業約1万社(回答は1743件)と労働者約2万人(同19,583件)を対象とする調査を実施し、結果を白書に盛り込んだ。
調査によると、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所は増えてきてはいるが、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は依然として50%を超えているという。
白書によると、過労死には、強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡が含まれるとしており、政府は今後、過労死等をゼロとするために、メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合を80%以上にすることを目指し、取り組んでいくという。政府の取り組みに加えて、我々も自らメンタルチェックをして過労死しないような予防策をとることが大切になる。これに関して精神保健福祉士の大美賀直子氏がAll Aboutで以下のように解説している。
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男性の方が自殺者が多い
大美賀氏は警察の統計などを用い、男性の方が女性よりも自殺者が多いと述べている。この要因として、男女の脳に構造上大きな違いがあり、左脳と右脳を結ぶ「脳梁」という橋のような役割を果たす部分が、女性は男性より20%太いことを、大美賀氏は挙げている。脳梁が太いと、女性は男性より右脳と左脳の連絡がよく、右脳で「何となく感じたこと」がすぐに左脳で言葉に変わるため、ストレス状態に気づきやすい上、何らかの支援につながりやすく、「死ぬまで追い込まれる」リスクは、男性より低いと考えられると大美賀氏は述べる。
ストレスに気づきにくく、自分を追い込み、対策が遅れがちになるのが男性だ。こうしたリスクを踏まえた対策について、大美賀氏は以下のポイントを挙げている。
1:生活習慣と身体症状でメンタルチェック
過労状態で感情を自覚しにくい場合は、「生活習慣」や「身体症状」からストレス状態をチェックするのがお勧めという。特に、うつ病の診断基準にも含まれる「睡眠」と「食欲」は、非常に重要な指標になると大美賀氏は指摘する。
■睡眠
過労死を防ぐためには、1日6時間以上の睡眠が必要で、この睡眠時間を割り込むと、時間外労働80時間の「過労死ライン」を越えた働き方になるという。
- 睡眠時間が1日6時間以下
- ぐっすり眠れず、朝の目覚めが悪い
- 時間外労働が80時間を越えている
上記の項目に心当たりがある人は、メンタルの危険信号。
■食欲、飲酒
以下の項目は注意が必要という。
- 朝食が食べられなくなった
- 食事を残してしまう
- 欠食することが多い
- やたらと食べてしまう
- 酒量が増えている
- 寝酒が習慣になっている
ストレスが溜まってくると、不眠や憂うつをアルコールで晴らそうとする人も増えるため、確認が必要という。
■身体症状
精神症状を自覚しなくても、体に症状が現れるうつ病もあり、これを「仮面うつ病」と言うと大美賀氏は説明する。よくある症状は、
- 頭痛、肩コリ、腰痛など体の痛みが治らない
- 便秘や下痢が続く
- 胃に痛みや不快感がある
など。内科の治療で改善しないようなら、仮面うつ病の疑いもあるという。
ここまでの項目で多くに心当たりがあるなら、精神症状を自覚していなくても、心療内科、精神科を受診することを大美賀氏は勧める。心の病の場合、早めに治療を始めるほど、早い回復が期待できるという。
2:休息・休養も「スケジュール」に組み込む
本来、休息・休養は「疲れを感じたら」とるもの。しかし、感情を自覚しにくい男性は疲れを感じにくいため、タイミングよく休めない傾向があるため、自分なりの休息ルールを設定し、「スケジュール」の中に組み込むことを大美賀氏は勧める。
また、意識的に「ノー残業デイ」をつくることも大切という。
さらに、休日の1日は「骨休め」の日にすること。土曜日に遊びの予定を入れるなら、翌日は家で休養するというスケジュールにした方が良いと大美賀氏は説明する。
3:自由に話して「感情を意識化」できる場を持つ
女性は、「今日のイヤなこと」をどこでも口にできるが、男性は難しいため、「話しやすい空間」に足を運ぶ必要があるという。落ち着ける空間に身をゆだね、気持ちを受容してくれる人と言葉を交わしたり、とりとめもない話をできたりすれば、感情を表わす言葉が口をついて出てくるものだと大美賀氏は述べる。
家族など「近しい間柄だからこそ、うまくいかない」という声もあるが、だからこそ、「自由に話して感情を意識化できる場」をどこかに一つは持つことが、メンタルリスクを管理するためにも大切だと大美賀氏は指摘する。
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