読売新聞は6日、政府が労働者に事実上無制限の時間外労働(残業)を課すことが可能とされる労働基準法の「36(サブロク)協定」の運用を見直し、1ヶ月の残業時間に上限を設定する検討に入ったと報じた。
上限を超える残業は原則禁止し、罰則規定の新設などを検討するといい、月内に発足する関係閣僚と有識者の「働き方改革実現会議」で制度設計を議論していくという。
改革が検討されている現行の労働基準法にある「36協定」とはどのような制度なのか。人事労務コンサルタントの小岩和男氏が残業にまつわる制度についてAll Aboutで解説している。
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労働時間・休日とは
小岩氏によると、労働時間・休日には法令上の決まりがあるという。労働基準法では、労働時間は1日8時間・1週40時間を超えて労働させることはできない、とされている(一部例外事業あり)。また、休日については、毎週最低1日の休日か4週間を通じて4日以上の休日を与えることとされているといい、これを法定労働時間・法定休日としていると小岩氏は説明する。
このため、「原則として残業、休日労働は法律上できないことになっている」と小岩氏は述べているが、一方で、実際の企業活動ではこの通りに収まらないことがあり、同法で「例外」が認められているという。例外を認めてもらうための手続きを踏まずに残業をさせてしまうと、刑事罰(6ヶ月以下の懲役、30万円以下の罰金)が課せられる可能性があると小岩氏は指摘している。
残業(時間外労働・休日労働)をさせるための必要な手続き
従業員に残業させるために、企業が実施しなければならないポイントとして小岩氏は以下の2点を挙げる。
- 就業規則等(労働組合との労働協約、個別従業員との労働契約を含む)に残業をさせる根拠規定(労働契約上の義務)を記載する
- 「時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)」の締結・届出をする
36協定とは
時間外労働・休日労働に関する協定は、労働基準法の36条に規定されていることから、通称「36協定」と言われると小岩氏は説明する。
この規定では、「時間外労働、休日労働に関する労使協定」(36協定)を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出れば、従業員に残業をさせても法違反にならないという。
なお、労使協定とは、労働者の過半数で組織されている労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者との書面協定のことを指すという。
36協定の作成方法と注意点
小岩氏は、36協定を作成するときに、実務上、次の事項を確実に押さえて手続きを踏むよう勧めている。
1. 時間外労働・休日労働の限度を、必要最小限にとどめること
厚生労働省から時間外労働の限度に関する基準(平成10年厚生労働省告示第154号)という通達が出されているという。36協定の内容は、この基準に適合させる必要があり、時間外労働・休日労働は無制限に認められるものではなく、必要最小限にとどめなくてはいけないという。
時間外労働の枠を設定する際には、原則として以下の限度時間の範囲に収まるように設定する必要があると小岩氏は説明する。
期間 | 限度時間 |
---|---|
1週間 | 15時間 |
2週間 | 27時間 |
4週間 | 43時間 |
1ヶ月 | 45時間 |
2ヶ月 | 81時間 |
3ヶ月 | 120時間 |
1年 | 360時間 |
2. 臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行う場合には「特別条項付きの協定」が必要
一般的には、上記のように残業時間を1ヶ月45時間、1年間360時間以内で定めることが多いが、業務上この限度時間を超えてさらに労働させることがある場合は、「特別条項付きの36協定」を締結することが必要になる。これを締結すれば、限度時間を超える時間外労働をさらに命じることができるという。
この特別条項は、限度時間を超えて残業を行わなければならない特別な事情に限定され、臨時的に残業を行わせる必要のあるもので、全体として1年の半分を超えないものを指している。具体的には、1ヶ月、限度時間45時間を超えるような時間外労働は、6回まで(1年の半分)となっていると小岩氏は説明する。
なお、今回政府は、こうした協定を結び、届け出れば労働時間の上限を変えられる実態についても検討対象にするという。
3. 割増賃金の支払い義務
特別条項付きの協定を締結する際、限度時間を超えて働かせる一定期間ごとに割増賃金率を定めておく必要があるという。時間外労働・休日労働をさせた場合は、割増賃金の支払いが必要になるためだといい、法定時間外労働の割増賃金率は25%以上、法定休日労働の割増賃金率は35%以上とされていると小岩氏は述べる。
2010年4月の労働基準法改正により、割増賃金率が一部改正されており、大企業については1ヶ月60時間超の法定時間外労働に対する割増賃金率が50%以上に引上げられていると小岩氏は述べる。中小企業については2019年まで猶予措置があるが、今後は大きな負担にもなるため、小岩氏は「労働時間の管理(時間外労働を含めた自社の適正労働時間管理)は、コスト面からも重要になっている」と述べている。
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