令和6年度東京都公立学校教員採用候補者選考(令和7年度採用)における小学校教員の倍率は1.2倍。かつては超難関と言われた都内の教員採用試験も、ここ数年は受験したほとんどの人が合格できてしまう試験となっています。
若者の「教員離れ」が連日ニュースになる一方で、日々教師として子どもたちと向き合っている先生も多くいます。フィンランドで大ヒットしたドキュメンタリー映画にも出演した、小学校教諭・えのもと先生に、教師として働くことへの思いなどをお聞きしました。
先生は、なぜ小学校の先生になったんですか?
「私はもともと人と関わることが好きだったので、幼稚園か小学校、もしくは老人ホームで働きたいと思っていたんです。その中で、これからの社会をつくる人を育てるお手伝いをしたいという思いで小学校の先生になりました」
——なぜ中学や高校の先生ではなく、小学校の先生を選んだのですか?
「得意な音楽を通して、『一人ひとりのよさ』を伸ばすことの魅力を感じたからです。私は小学校でブラスバンド部に入ってから、中学、高校、大学と打楽器をやっていました。その経験を生かして吹奏楽の指導をしていたこともあり、そのときに『一人ひとりがもつ、それぞれのよさや長所』を伸ばすことのやりがいを感じました。
現在は少しずつ変わっているものの、基本的に小学校は全教科担任制、中高は専科制です。私が中学の音楽科教諭だとして、自分のクラスに音楽が苦手な子がいたら、仮に彼が計算がすごく得意でも、授業では彼の『苦手な部分』しか見ることができないですよね。それだと彼が活躍できる場所を、担任なのに適切に作ってあげられないかもしれない。そういう思いがなんとなくあって、小学校の先生を選びました」
——実際の現場ではどうですか?
「当たり前ですが、Aは苦手でもBが得意、という子は多くいます。でも、例えば体育が苦手な子が、私が運動会のダンスの隊列をうまく割り切れずに悩んでいると得意な算数を使って『こうしたらきれいに並べられるよ』と教えてくれることもあるんですよ。普段はそこまで意識しませんが、やはり子どもたちのいいところをたくさん知れるのが小学校の先生の強みだと思います」
子どもを思う気持ちが「余計なお世話」に。教師という仕事の難しさとやりがい
「うーん……。よかれと思ったことが余計なお世話になることもある、ということでしょうか。例えば字をきれいに書くのが苦手な子どもがいたとして、きれいに書けるように指導したとしますよね。そうすると、時に『僕はできないのにやれって言われた』と、子どもにとってつらいことになってしまうことがあります。また、保護者からそこまで求める必要はあるのかとお叱りを受けることもあります。
私としては、どんなにデジタル社会になっていくとしても、人に書き文字を見られる機会は今後もあるだろうし、何より字をきれいに書ける喜びを知ってほしいと思うのですが、受け手の子どもが必ずしもそれを求めていない場合があります。そうしたときに、一人ひとりに合った指導をする難しさを感じますね」
——教師の仕事のやりがいはどうですか?
「シンプルですが、『学校生活が楽しい』『先生の仕事に憧れる』と言ってもらえたときです。先日、私が新採用の年にクラスをもった子どもと偶然会ったのですが、その子が『先生の仕事って、大変?』と聞いてきたんですよ。大変だけど楽しいよと返すと、『私、学校の先生になろうと思うんだよね。友達と遊んだことも、毎日笑ってみんなで成長できたことも、本当に楽しかったから』と言ってくれて。
その子は現在高校生ですから、もちろん私だけでなくいろいろな先生に出会って学校生活を送ってきたわけですが、教え子が憧れる存在として、先生という職業が挙がったことが本当にうれしかったです」
——今日、取材前にえのもと先生のクラスの授業を少し見させていただきました。先生の指示に従うだけでなく、子どもたち同士で助け合いながら授業を進めている様子を見て感動しました。その高校生がそんな風に思えた理由が分かる気がします。
「こうして自分のクラスの子どもたちをほめてもらうこともうれしいし、やりがいですね」