だれでも「いじめの加害者」になる可能性がある
傷つける意図はなかったとしても、自分の行為によって相手が心身の苦痛を感じたのであれば「いじめ」と定義される今、いじめの加害者にも被害者にもなり得る可能性はある。
実際に自分が行った行為によって相手が傷ついていることを知ったとき、動揺する児童もいるだろう。そんな状況で、大人から一方的な指導を受けたり、謝罪を促されたりするのでは根本的な解決にはつながらない。
いじめの加害者となった児童やその保護者に対して、学校ではどのような対応をしているのだろうか?
一方的な指導はNG。発達特性や家庭環境が影響している場合も
「加害児童に一方的に指導してしまったことによるトラブルは起こりがちです。そこは気をつけないといけないところです」慎重な面持ちでそう話すのは、公立小学校でいじめ対策専任教諭を務める中尾先生(仮名)。
「例えば、『AさんがBさんを無視した』という訴えがあった場合、Aさんは加害者になります。けれど、Aさんに事実確認をすると、『無視はしていない』と言う。子ども同士の間では、両者の言い分が食い違うこともあります。こういう状況では、防犯カメラの記録や第三者の目撃があるわけではないので、学校としては『Aさんが無視した』と判断することはできません。そうなると、『もし無視していたとしたら、それはダメなことだよね』というふわっとした表現での指導になってしまいます」
また、Aさんから『それより前にBさんから無視されていた』と言われることもあるのだという。この場合、両者がいじめの加害者でもあり被害者でもある可能性がある。案件は2件になり、指導はより複雑になる。
いじめの加害者となる児童には、発達や家庭環境に課題がある場合もある。
「相手の背中をバン!と叩いて、相手が振り向いてから『よっ!』と声をかける児童もいます。その子自身はいじめをするつもりがなくても、友だちに話しかける方法が分からなくて、結果として暴力的な行動を取っている可能性もあります。そのような場合は、保護者とも相談しながら個別にサポートをしたり、指導補助員についてもらったりします。
また、家庭環境の影響でイライラしていることがあり、日常的に暴力を振るう児童もいます。その場合は何らかのサインとして受け取り、指導することよりもケアやサポートをしていく方法を考えていきます」
いじめ発生時は保護者へ連絡。教員が“板挟み状態”になることも……
いじめが発生すると、加害児童の保護者には必ず連絡をする。しかし、「そんなの子どもたち同士でなんとかしてください」「その程度でいじめなんですか?」と言われることもあるという。さらに、いじめの内容がどうであれ、加害児童の保護者に謝罪や弁償を強要することはできない。関係する児童に事情を聞くことはできたとしても、捜査権のない教員にとって事案の真偽を明かにすることは困難なのだ。
「事実を伝えた上で、加害児童保護者から、『被害児童保護者に直接連絡をして謝罪したい』と申し出があった場合、被害児童保護者に確認をし、連絡先を教える場合はあります。しかし、加害児童保護者から何の申し出もなかったり、『子どもたちの問題なので子どもに解決させます』と言われてしまったりしたら、学校としてはそれ以上「保護者からも謝罪してください」とは言えません。たとえ、相手の眼鏡が壊れたとしても、けがをさせたとしても。
被害児童の保護者が『弁償してほしい』と言っている場合はその意向を伝えることはできますが、学校としてはあくまで両者の間に立って連絡することしかできないんです。意向が食い違ってしまうときは、両者から怒鳴られることもあります」
いじめが発生した場合、それぞれの家庭での価値観や考え方を尊重しながら対応を進めていくことも、教員が担う仕事のひとつなのだ。
「いじめ」を減らすために、日々のコミュニケーションを大切にする
「校内で起こっているいじめの案件を確認してみると、ほとんどが相手が嫌な思いをしていると気づかずに行った“無自覚ないじめ”でした。例えば、ドッジボールでボールが当たった人に対して、小学生の間でもはやっている『おっつー』という言葉をかけるようなことがあります。それをあおりのようで嫌だと感じる人もいれば、そうではない人もいる。状況にもよりますし、いろんな感じ方があるわけです。
無自覚ないじめを防ぐには、相手ともっとコミュニケーションを取って、その人がどんな感じ方をするのかを考えられるようになることが必要だと思います。そんなことを児童と話し合いました」
同じことをされたり言われたりしたとしても、それをどう受け止めるかは人によってさまざまだ。相手がどう感じるかを“察すること”よりも、日々のコミュニケーションが大切だと中尾先生は言う。
いじめの根本的な原因を見つめ、時間をかけて人との関わりにおいて大切なことを児童に伝え、いじめ防止に努める。さらにいじめ発生時には、児童や保護者を含めて丁寧な聞き取りや連携を進めていく先生たちには頭が下がる思いだ。
この記事の執筆者:建石 尚子
大学卒業後、5年間中高一貫校の教員を務める。フィンランドにて3カ月間のインターンを経験したのち、株式会社LITALICOに入社。発達に遅れや偏りのある子どもやご家族の支援に携わる。2021年1月に独立。インタビューライターとして、教育や福祉業界を中心にWEBメディアや雑誌の記事作成を担当。
大学卒業後、5年間中高一貫校の教員を務める。フィンランドにて3カ月間のインターンを経験したのち、株式会社LITALICOに入社。発達に遅れや偏りのある子どもやご家族の支援に携わる。2021年1月に独立。インタビューライターとして、教育や福祉業界を中心にWEBメディアや雑誌の記事作成を担当。