(今回の質問)
楽天モバイルが獲得した「プラチナバンド」とは? 本当につながりやすいの?
(回答)
プラチナバンドとは、携帯電話で使用する電波のうち1GHz以下の周波数帯のことを指します。電波は周波数が低いほど障害物の後ろにも回り込みやすく、遠くに飛びやすいことから、1つの基地局で広いエリアをカバーできるので携帯電話会社にとって最も重要とされる周波数帯の1つとなっています。ただそれ故に、既にさまざまな用途に使われてしまっており、空きが少ない貴重な帯域でもあることから「プラチナ」に例えられているのです。
以下で詳しく解説します。
なぜ携帯電話会社にとってプラチナバンドが重要なのか
楽天モバイルが免許を獲得したことで再び注目を集めているプラチナバンド。これは携帯電話向けに割り当てられている電波の周波数帯のうち、1GHz以下の低い周波数帯のことを指しています。
なぜ携帯電話会社にとってプラチナバンドが重要なのかというと、それは電波が遠くに飛びやすいから。電波はその特性上、周波数が低いほど障害物の後ろに回り込みやすく広範囲に届きやすく、周波数が高いほど回り込みにくく遠くに飛びにくいのです。
そして携帯電話のサービスで最も重視されるのは、何より「つながる」こと。どれだけ通信速度が早いサービスを提供していても、電波が届かずつながらないエリアが多ければユーザーの不満は大幅に高まってしまうだけに、つながることを重視する上では遠くに飛びやすいプラチナバンドは重要性が非常に高いわけです。
ビジネス上のメリットも
もちろんプラチナバンドより周波数が高く電波が遠くに飛びにくい帯域を用い、基地局をたくさん設置すればプラチナバンドと同じ面積のエリアをカバーすることは可能です。ですが基地局を多く設置するには、それだけ多くの手間とコストが掛かることから、1つの基地局で広範囲をカバーできるプラチナバンドはビジネス上のメリットも非常に大きいのです。
ただそれだけ便利な周波数帯ゆえ、プラチナバンドは携帯電話以外にもさまざまな用途に使われていることから空きがほとんどなく、“プラチナ”並みに価値が高い周波数帯となっているのも事実。プラチナバンドを新たに割り当てるとなると、既存の無線システムの周波数を移動させて空きを作るか、そうでなければ使えそうなプラチナバンドをどうにかして探り当てるしか方法はありません。
NTTドコモやKDDI、ソフトバンクのこれまでの動き
実際、早くから携帯電話事業を開始していたNTTドコモやKDDIにはもともとプラチナバンドが割り当てられていましたが、参入が後発だったソフトバンクにはプラチナバンドが割り当てられていませんでした。そこで同社はプラチナバンドの割り当てを行政に訴え続け、参入からおよそ5年後の2012年にようやく割り当てを受けるに至っています。そしてこの時割り当てられた900MHz帯も、業務用無線の周波数帯を移動して空きを作ったものでした。
楽天モバイルが携帯電話事業に参入したのはそれからおよそ10年後で、プラチナバンドの空きはもうほとんどありません。そこで楽天モバイルは、他の3社が免許を持つプラチナバンドを分割して楽天モバイルに再割り当てすることを要求。喧々諤々(けんけんがくがく)の議論の末に総務省もこれを認めたのですが、既存3社がフル活用しているプラチナバンドを分割して再割り当てするとなればさまざまな工事が必要となり、新しい通信システム「5G」の整備に大きな遅れが生じるなど、国としても大きな損失が生じる懸念がありました。
楽天モバイルがプラチナバンドを獲得できたワケ
そこで動いたのがNTTドコモです。同社は携帯3社に割り当てられているプラチナバンドの1つである700MHz帯と、隣接する地上波デジタルテレビ放送などとの電波干渉を避けるために空けられた“隙間”の周波数帯のうち、干渉の影響が少ない3MHz幅を携帯電話向けに割り当ててはどうかと提案。検証の末にこれが認められ、新たなプラチナバンドとして免許割り当てが進められたのです。
しかも総務省はその免許割り当ての際、プラチナバンドを保有していない事業者を高く評価する項目を設けるなど、楽天モバイルが優位になる条件を設けました。それゆえ大手3社はあえて免許申請をせず、楽天モバイルが無事新しいプラチナバンドの免許を獲得するに至った訳です。
楽天モバイルの計画を見るに、新しい700MHz帯によるサービスを開始するのは2026年されていますが、同社では前倒しでの整備も検討しているとのこと。新しいプラチナバンドの活用で、楽天モバイルのつながりやすさが大きく改善されることを期待したい所です。
エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在は業界動向から、スマートフォン、アプリ、カルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。