そろそろ2024年度用の中学受験過去問題集も出そろう時期。ところで中学受験の入試問題というと、“大学生や大人ですら解けない”難問ばかりというイメージをもつ方も多いのではないでしょうか。たしかにそれも間違いではないのですが、一方で、テレビのクイズ番組に出てきそうな問題もたくさんあります。
今回はそのなかでも、慶應義塾中等部、栄光学園中学校、 聖光学院中学校のおもしろ入試問題をご紹介します。受験勉強が知識の詰め込みだったのは、遠い昔の話。令和の受験勉強は、“難関校”ほど日ごろから「考える習慣」をもった子が選抜されるものになっています。
正解は最後に書いておきますので、ぜひ親子でチャレンジしてみてください。
【慶應義塾中等部/算数】ナンプレ感覚で解くパズルのような穴埋め問題
和が最も小さくなるためには、百の位の数字をできる限り小さくした方がよいから、百の位に1と2を入れたらどうだろう? 残りの数字をどう入れても、十の位と一の位の合計が100を超えるため、3〇〇は作れないなぁ……といった感じで、試行錯誤しながら解いていきます。
「○○算」の解法をたくさん覚えなければいけないという中学受験のイメージとはちょっと違った、現場思考型の問題です。普段ナンプレなどで遊んでいる子は、同じ感覚で試行錯誤しながらゴールにたどり着きやすいと思いますが、慶應義塾中等部だけに意外と難しく大人でも苦戦します。
親子でどちらが早く解けるか競争してみてはいかがでしょうか?
【栄光学園中学校/社会】:神奈川御三家レベルは脱受験テキスト!? 考察力が試される問題
2023年入試の栄光学園中学校の社会は、大問1から最後の大問6にいたるまで「牛乳」をテーマにした問題です。
大問1には、「幕府から貿易を許されていた国を答えなさい」(問1)、「アメリカに渡って帰国したあと、当時の欧米の様子を紹介した『西洋事情』や、『学問のすゝめ』を書いた人を答えなさい」(問3)といった、中学受験生であれば、リード文なしでもほぼ解けてしまう基礎問題が出題。
しかし、以降大問5にいたるまでは、中学受験の知識はほぼ不要ではありますが、与えられた条件から考える力が求められています。今回取り上げた大問2も、「牛乳はとても腐りやすいので」をヒントにして考えます。そして大問6は、大問1~5で解いた問題をもとに、これらをまとめて考察する力が問われる出題内容でした。
【聖光学院中学校/理科】:昔、春分や夏至の「おやつの時間」はそれぞれ何時だった?
“おやつの語源”は、日の出と日の入りを基準とする「不定時法」にあることを考えたことがあるという子は、ほとんどいないでしょう。
中学受験の理科の「太陽の動き」では、「春分・秋分の日没の時刻は18時頃で、夏至・冬至になると1時間ほど前後する」「江戸(東京)では、日本標準時である兵庫県明石市よりも20分ほど早くなる」といった内容を習います。
この問題は、これらの基礎知識をそのまま問うのではなく、次の問題文をヒントにして春分や夏至の日のおやつの時間を考えさせるというものです。
栄光学園中学校の社会の問題とも共通しますが、ただ単に知識を丸暗記しているだけでは解けない点から、問題作成者が入学者に求める資質が伝わってきますね。
以上、2023年のクイズ番組に出てきそうな入試問題3選でした。最近は、難関校ほど今回紹介したようなひとつのテーマをさまざまな角度から掘り下げる入試問題が多くなっています。これは、学校側からの「日ごろからいろいろなことに興味をもって考えてみてほしい」というメッセージといえるでしょう。
算数解答
(1)459
「1〇〇+2〇〇=3〇〇」を作ろうとすると、残りの数字をどう入れても十の位と一の位の合計が100を超えるため「3〇〇」は作れない。したがって、答えの百の位は4になる。
残りの数字の3、5、6、7、8、9を使って「〇〇+〇〇=1〇〇」になるように数字を当てはめる。このとき、答えの十の位として一番小さいのが3なので、「13〇」になるように作れるか? と順に試していく。「13〇」は作れないので、次に15〇が作れるかを試す。
一の位で繰り上がりがあるとすると「6〇+8〇=15〇」になるが、これは作れない。繰り上がりがないとすると「7〇+8〇=15〇」か、「6〇+9〇=15〇」となるが、前者の方で73+86=159が作れる。
よって、「173+286=459」が正解。
なお、足し算は「276+183」など、組み合わせは複数ある。
社会解答例
問1:牛乳は腐りやすく、当時は冷蔵庫もなく保存できなかったから(低学年の子とクイズ感覚で解いてみるなら、「昔は冷蔵庫がなかったから」くらいの答えでも十分です)。
問2:瓶に入れて密閉した方が、ひしゃくで配るよりも、雑菌が入る危険が少ないから(低学年の子だったら「その方がきれいで長もちするから」くらいの答えでよいでしょう)。
理科解答
カ
江戸(東京)の冬至の日の入り時刻16時40分ごろ-南中時刻11時40分ごろ=5時間
5時間÷3=1時間40分
11時40分+1時間40分=13時20分
となるため、「カ」が正解。
なお、「日の入りが早くなればおやつの時間も早くなる」ため、「カ」か「キ」に絞られる。また、「キ」の15時だと、11時40分と16時40分の真ん中より後ろだから違うと考えると、細かい計算をしなくても「カ」が答えと分かる。
菊池洋匡 プロフィール
中学受験専門塾 伸学会代表。開成中学・高校・慶應義塾大学法学部法律学科を卒業。算数オリンピック銀メダリスト。子どもたちの成績を上げるだけでなく、勉強を楽しむ気持ちや困難を乗り越え成長していくマインドを育てる方法を確立。生徒と保護者に「勉強には正しいやり方がある」ということを一貫して伝え続ける。