「気象災害」は世界中で増えている?
このところ、世界のあちらこちらで気象災害が頻発しています。日本でも9月には台風14号や15号が接近し、九州では土砂災害や川の氾濫が相次ぎ、静岡県では大雨の影響で長期間にわたって断水が続きました。海外についても同様に、アメリカ南部のフロリダ州ではハリケーン「イアン」の上陸によって死者が多数出ました。
パキスタンでは国土の3分の1が水没
南アジアのパキスタンはこの夏、なんと国土の3分の1が水没するという信じがたい異常事態となりました。もともと、パキスタンのある南アジアでは、夏はインド洋から吹く「モンスーン(季節風)」の影響で降水量が多くなります。海から吹くモンスーンは、雨雲のもとになる水蒸気をたくさん含んで湿っています。湿った風がヒマラヤ山脈にぶつかり、強制的に上昇すると雨雲が発達しやすくなり大雨となるのです。
普段から雨が多い季節ではあるものの、2022年は上空に寒気が居座ったことで大気の不安定な状態が続き、一層雨雲が発達しやすくなったと考えられます。カラチ国際空港(パキスタン)では、6~8月の3カ月間に平年の約3.5倍の雨量を観測しました。そこへヒマラヤ山脈の氷河が融解したことが重なり、洪水の被害がかつてないほどに拡大したのです。
6月には観測史上初の40度も、世界的な猛暑と大雨
世界各地で大規模な水害が増えている原因の1つに、地球温暖化が影響しているといわれています。地球の気温は19世紀後半から約1度上昇していますが、今年の夏は日本で6月に観測史上初めて40度を超えたほか、ヨーロッパでも猛暑により大規模な山火事が発生するなど世界各地で深刻な暑さとなりました。
地球温暖化は猛烈な暑さを引き起こす一因となるだけでなく、雨の増える原因にもなります。空気は暖かくなるほど、雨雲のもとになる水蒸気をたくさん含むことができるからです。
【図1】は気温と飽和水蒸気量という要素の関係性を示したグラフです。飽和水蒸気量とは、ある気温の空気が含むことのできる最大の水蒸気の量です。飽和水蒸気量は気温が高いほど、大きくなっています。気温が高くなれば、空気中の水蒸気が増えることになり、その水蒸気が上昇気流に乗って上空で冷えると、やがて水滴の集合体である雲になり、雨雲として発達します。このため、温暖化によって気温が上がると多量の雨が降るのです。
地球温暖化で「気候難民」の増加も深刻な問題に
このまま具体的な対策を取らずに地球温暖化が進行すると、21世紀末の日本の平均気温は20世紀末に比べて約4.5度上昇し、多くの地域で「猛暑日」や「熱帯夜」の日数が増加すると予測されています。また、1時間に50ミリ以上の非常に激しい雨の降る頻度は2倍を超えるといわれています。
世界各地で気象災害による被害が後を絶たないと、いわゆる「気候難民」の問題も深刻になるでしょう。「気候難民」とは、極端な豪雨や異常な暑さ、長期間にわたる干ばつなどによって故郷を離れて移住せざるを得なくなる人々のことです。本来「難民」とは、国際法では戦争や迫害から逃れるために国境を越えて外国に避難した人々のことをいいますが、「気候難民」は国内外を問わず移動を強いられた人のことを指して使われています。
すでに年間で平均して2000万人以上の人が住む場所を追われています。世界銀行が2021年9月に発表した報告によると、2050年までに2億1600万人もの気候難民が発生し、最も大きな影響を受けるのはサハラ砂漠より南のアフリカの地域で、8600万人もの人々が移住を余儀なくされる恐れがあります。
特に発展途上国が災害によってひとたび大きな被害を受けると、立ち直るだけの経済力がなく、先進国以上に深刻な状態に陥ります。このまま地球温暖化が進み、気象災害の被害が増え続けると、いずれは日本でも気候難民と呼ばれる人が出てしまうかもしれません。
参考:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—」
【おすすめ記事】
・モネの名画『積みわら』にマッシュポテトを投げつける「事件」 アートと環境問題の関係性とは?
・6月なのに40℃超えの「危険な暑さ」も! 早すぎる「梅雨明け」、この先の天気は?
・【日本の絶景クイズ】この美しい“黄金色のトンネル”が見られるのはどの都道府県?
・雨の日=湿度100パーセントではない?湿度0パーセントはありえる?
・冬の関東は全国屈指の「乾燥地帯」、その理由は地形図を見れば一目瞭然!?