年収は低くても生活しやすい?中国と日本、収入の違い

2020年の中国のサラリーマンの平均年収は167万円。数字だけみれば日本の方がまだまだ豊かなのですが、現地の肌感覚でいえば、近年は日本の生活の方が大変という感じです。それは何故なのか? 具体的に掘り下げていきます。

中国のサラリーマンの平均年収は167万円


2021年5月19日、中国国家統計局が2020年の中国の平均収入を発表しました。それによると、都市部非私営企業(国有企業、株式会社、外商投資企業などを含む)の年収は97,379元(約167万円)、都市部私営企業の年収は57,727元(約99万円)でした。

農村部の収入について5月の発表では記載がなかったので、中国国家統計局が1月18日に発表したデータをみてみましょう。それによると、農村部の2020年の1人当たりの1年の可処分所得(手取り)が17,131元(約29万円)となっています。

この1人当たりの1年の可処分所得には、労働者ではない高齢者や子どもも含まれているため、1世帯3人とすると家族の可処分所得(手取り)は17,131元×3人=51,393元(約88万円)/年。一般的な感覚として、農村部の1世帯の手取りは5~6万元(約86万~103万円)といわれているので、妥当な数字です。

都市部の数字を手取りにすると、都市部非私営企業が約75,000元(約129万円)、都市部私営企業が44,600元(約77万円)。都市部はほぼ共稼ぎと考えられるので、1世帯の手取りはおよそ154万~258万円となります。まとめると次のようになります。
  • 都市部の1世帯の手取り……約154万~258万円/年
  • 農村部の1世帯の手取り……約88万円/年

日本の国税庁のレポートによると、2019年の日本の正規雇用の平均給与は503万円(手取り約393万円)、非正規雇用が175万円(手取り約143万円)となっています。

数字だけみれば日本の方がまだまだ所得が高いのですが、現地の肌感覚でいえば、近年は日本の生活の方が大変という印象です。それは何故でしょうか?

 

中国は公共料金、食費など生活必需品が安い

約3キロスイカが200円ちょっとと日本より安価
約3キロのスイカが200円ちょっとと、日本より安価
中国の公共料金は日本より安く設定されています。その例をご紹介します。
  • 電気、ガス、水道代 …… 1世帯3人の平均費用200~300元(約3,400~5,100円)/月
  • インターネット回線 …… 初期工事費無料(ルーターは別)、通信速度50M 約50元(850円強)/月、200M 約80元(1,300円強)/月、300M 約100元(1,700円)/月、500M 約160元(2,700円)/月
  • スマホ通信費 …… 個人によって差はあるが平均50元(850円強)/月 ※ネット回線とスマホ通信費をセットにした割引プランを利用すると更に安くなる。
  • 地下鉄初乗り …… 地域によって違うが2~3元(約35~50円)
  • 郵便(手紙) …… 1.2元(約20円)
  • 宅配料金 …… 同地域内(上海市内、河北省内など)は6元(約100円)~、越境配達12元(約200円)~

これは一般的な価格で、農村部などは飲料水が無料の場合や(農村部の水の有料化は徐々に進んでいます)、インターネット回線が無料で提供されることがある(回線を村で契約し、村人にWi-Fi環境を提供する)など、低所得地域にはお金がなくても生活できるシステムがつくられています。

住居費にも目を向けてみましょう。都市部は物件の高騰がニュースにもなるほどですが、農村部は使用権(一応共産主義なので所有権ではない)をもつところに家を建てるのは基本自由。低所得地域の建設費用などは、国が補助金を出しています。また、共産主義で所有の概念がないから当然といえば当然ですが、都市部も農村も固定資産税はありません。

食費は、標準的なものなら米10キロ850円強、小麦10キロ850円強、卵500グラム(10個強)85円、牛肉100グラム100円強、豚肉100グラム70円弱、鶏肉100グラム約24円、白菜1個100円強、トマト1個25円強、キュウリ1本10円弱、鯉や草魚100グラム約35円……

物によって差はありますが、日本の4分の1~2分の1という感じです。農村部はもっと安いですし、自給自足していることが多いです。

以上、ザクッといえば、中国の生活費は日本の半分以下。つまり、中国のサラリーマンの平均年収167万円は、日本でいうと334万円の価値があります。それ以外の低所得層でも99万円×2=198万円となり、日本の非正規雇用175万円より多くなるわけです。

 

共稼ぎ、女性の社会進出が当たり前の社会

幼稚園のお迎え。ママの姿だけでなく、パパやジジババの姿も
幼稚園のお迎え。ママの姿だけでなく、パパやジジババの姿も

中国にはイクメン・家事メンという言葉が存在しないぐらい、男性が育児や家事に参加することが普通の社会です。また、会社も女性と男性を日本ほど区別しません。

幼稚園や保育園の環境も整っていて、幼稚園は1歳半から、保育園なら1歳ぐらいから預けられます。日本のように順番待ちなどはありません。保育園は平日ずっとお泊りというところもあり、普通の幼稚園でも朝7時から夕方5時まで預かってくれて、延長を引き受けるところもたくさんあります。

もちろん、幼児が保育園にずっとお泊りというのは問題もあるのでしょうが、そういう選択肢もあるため、シンパパやシンママの苦労が日本より少ないのです。

また、祖父母の育児参加が当たり前なのも中国のよさだと思います。昼間の公園に行くと、ママが子どもを連れている姿より、ジジババが孫を連れている方が多いくらいです。

つまり、1人頭の稼ぎが少なくても、共稼ぎで所得は倍増。シングルでもフルで働ける環境が日本よりは整っているというわけです。

 

低所得層のがんばらない働き方

重労働を好まない中国の若者。工事現場は賃金高騰でもなかなか人が集まらない
都市部私営企業で働く年収57,727元(約99万円)程度の低所得層の多くがレストランのホールスタッフやスーパー、個人商店の販売員など、サービス業に従事しており、日本の非正規雇用とやや似た感じです。

ただ低所得層の場合、寮や食事がついているケースが多く、出費が抑えられるようになっています。

また、その業務内容も要求は高くありません。テーブル当たりのホールスタッフや販売員の人数は日本より多いですし、客が少ない時間帯は、休憩時間でなくても椅子に座って携帯を見ていたり、寝ていたりしています。

中国人はタクシー運転手や配達員のように働くほどに収入が上がるシステムでなければ、低い給与でがんばることはしません。建設現場などは他の業種より給与がやや高いものの、過酷な環境&重労働で若い世代には避けられてしまい、給与が年々上昇しています。

アルバイトでもパートでもそれなりの仕事のレベルが求められる日本より、かなり気楽だといえます。
 
屋台は低所得層の重要な収入源であると同時に、低価格な物資を手に入れられる貴重な場所
中国には人権問題や言論制限など問題は山積みですが、貧富の差に関してはそれをなくそうと、以下のような具体的な取り組みを行っています。
  • 個人所得税の基礎控除額を、従来の3,500元から5,000元(約85,000円)に引き上げて中低所得層の負担を軽減
  • 新型コロナウイルスでダメージを受けた低所得層を救済しようと露天商を奨励
  • 貧困地域の教育レベルの向上に努める
  • 富裕層への締め付けを強化(そのため、資産の海外流出が増加している)
  • 国内労働を確保するため外国人への規制を強める
もちろん、中国の所得格差はまだ是正されているといえるレベルではありませんが、低所得層の底上げは確実になされつつあります。逆に日本は1億総中流といわれた時代が終焉し、近年、低所得層の増加と格差が問題となっています。

その原因の1つは日本人の政治の無関心にあるのではないでしょうか。中国人は選挙権こそありませんが、政治に関心がある人が多く、政府に不満がある場合はデモ活動などを行います(公のニュースにはなりませんが)。中国政府も独立運動や人権問題には強固な態度で挑みますが、貧困の訴えには真摯に取り組む姿勢をみせているのです。

というのも、中国の王朝の滅亡は、いつでも農民らの反乱を契機としているから。6億人という農村部の人たちが飢えて立ち上がることを、中国は何よりも恐れているのです。
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