今年は長梅雨になる?集中豪雨をもたらす「線状降水帯」への警戒を呼び掛ける情報がスタート【気象予報士が解説】

異例の早さで始まった今年の梅雨。長梅雨になる可能性もあり、例年以上に私たちの生活に大きな影響が出るかもしれません。また近年注目される「線状降水帯」への警戒を呼び掛ける情報が来月から始まります。梅雨時に活用したい防災情報について気象予報士が解説します。

「異例の早さ」で梅雨入り

記録的な早さでジメジメとした雨の季節が始まりました。今年は沖縄・奄美地方を皮切りに、今月中旬までに九州から東海地方までが梅雨入り。平年に比べて20日前後早かった地域が多く、四国と近畿では過去最も早い梅雨入りとなりました。まだ梅雨入りしていない関東も、本州付近に停滞する梅雨前線の影響を受けて、例年に比べてくもりや雨の日が多くなっています。

梅雨入りが早くても梅雨明けが早いわけではない?

梅雨に入るのが早かったから、明けるのも早いのでは? そう思いたくなりますが、過去のデータを遡るとそうとは限りません。関東甲信地方の梅雨入りは、平年では6月7日ごろです。統計の残る1951年以来、5月中に梅雨入りした年は5回ありました(画像1)が、梅雨入りが早い年でも、梅雨明けは大体平年と同様に7月20日前後。長梅雨となった年も多くありました。

【画像1】関東甲信地方の梅雨入り・明け・降水量

「明けない梅雨」もある? 長梅雨が私たちの食生活に及ぼす影響

1993年の梅雨は日本人の食生活に大きな影響を与えました。この年は5月30日の梅雨入り後、記録的な長雨となり梅雨明けが特定できませんでした。日照不足と冷夏により米の収穫量が例年の約7割程度となり、「平成の米騒動」と呼ばれるほどの深刻な米不足が起こりました。政府は外国から米を緊急輸入することになりましたが、輸入米の大半はタイ政府が備蓄していたインディカ種のタイ米でした。タイ料理のお店が増えた今でこそカレーやピラフに合うと人気のタイ米ですが、当時はなじみがなく食べられないまま廃棄される問題が起きました。

また2020年の梅雨(画像2)も長期間に渡り続いたことは記憶に新しい人も多いのではないでしょうか? 関東甲信では6月11日に梅雨入りした後、なんと8月1日まで梅雨明けの発表がありませんでした。この長雨により野菜が順調に育たず、キャベツやニンジンなどの価格が高騰しました。プールなど夏休みに賑わうレジャー施設も客足が遠のき、コロナ禍の影響もある中で深刻な不況が続きました。長梅雨は食生活をはじめ私たちの生活に様々な影響を及ぼすのです。

【画像2】2020年7月4日の雲の様子
 

梅雨時は天気予報の「信頼度」に注目を

梅雨時にぜひ活用してほしいのが週間天気予報の「信頼度」です。簡単にいうと、天気予報の精度がどれくらい高いのかA・B・Cの3段階で表したもので、気象庁が発表する週間天気予報で3日目以降の予報に付けられています(画像3)。信頼度Aの予報が雨が降るかどうかの適中率が最も高くなっています。

【画像3】気象庁週間予報の信頼度 ※出典:気象庁HP(一部より加工)

梅雨時は多くの気象予報士が最も予報が難しいと声をそろえる季節です。その理由は南北に動く梅雨前線のちょっとした位置のずれにより雨の降る場所が変わるためです。先の予報になるほど、前線の位置を特定しづらく信頼度BやCが増えて予報が変わりやすくなります。この季節は、もともとはくもりの予報だった日が雨の予報に変わるといったことがあるため、こまめに予報を確認する必要があります。週間天気予報の信頼度を併せて活用してもらいたいというのが気象予報士の本音です。
 

集中豪雨をもたらす「線状降水帯」とは? 新たな防災情報がスタート

梅雨末期には梅雨前線の活動が活発になり、大雨による被害が頻発するようになります。近年、甚大な災害を引き起こす「線状降水帯」が注目を集めています(画像4)。2018年に起きた「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」や2020年の「令和2年7月豪雨」などでも発生し大きな被害をもたらしました。

【画像4】2020年7月4日の線状降水帯

発達した積乱雲が帯状に連なる「線状降水帯」が発生すると、数時間にわたってほぼ同じような場所で集中的に雨が降り続き、経験したことのないような大雨をもたらすことがあります。

気象庁はこの「線状降水帯」による大雨が確認された場合に、来月、6月17日から新たに作成した「顕著な大雨に関する情報」を運用する予定です。この情報が発表された時は、命に危険を及ぼす土砂災害や洪水が発生する危険度が急激に高まっていることを意味しており、危険な場所にいる人は直ちに身の安全を確保する必要があります。


 

「キキクル」の活用で命を守って!

しかし、この情報は線状降水帯が「予測」された時ではなく「確認」された時に発表されるもので、発表されなくても災害が発生するおそれは十分にあります。情報の発表を待つだけではなく、周囲の状況が変化したら自ら危険を察知し、自分や大切な人の命を自分たち自身で守らなくてはいけません。気象庁のホームページでは土砂災害や河川の洪水、低い土地の浸水の危険度がいつ、どこで高まっているのを見える化した情報「危険度分布」(画像5)があります。一般公募で決定した愛称は「キキクル」で、土砂キキクル・浸水キキクル・洪水キキクルの3種類があります。キキクルは雨による災害の危険度を5段階で色分けし地図上にリアルタイム表示するもので、濃い紫色の表示が最も高い危険度「極めて危険」であることを表しています。この表示の段階になると、すでに災害が発生していてもおかしくありません。

【画像5】キキクル(危険度分布) ※出典:気象庁HP

活用する上でのポイントは、「うすい紫色の表示までに逃げる」こと。濃い紫色の表示にまだなっていないからと油断していると、逃げ遅れてしまうおそれがあります。またお年寄りや小さなお子さんなど避難に時間のかかる人は、赤い表示の段階で危険な場所から避難をする必要があります。

異例の早さで始まった雨の季節。気象情報を上手に活用し、日常生活に役立てるだけでなく、いざという時に災害から自分や大切な人の命を守れるように改めて情報の内容を確認してください。

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