幼少期から始まっている!韓国の大学受験事情とは

韓国は日本以上の学歴社会。そのため、受験生は一流大学入学をめざし、子どもの頃から一生懸命勉強します。その陰には親の努力も……。韓国の大学受験事情について解説します。

韓国が学歴社会というのは、日本でも知られているところですが、その熾烈さは相当なもの。大学受験制度から韓国の競争社会が垣間見えます。
 

全ては良い大学、良い就職のために

大学入試は、定時募集と随時募集のどちらかを通して選抜されるのが一般的です(※1)。定時募集は、日本の大学入学共通テストに相当する大学修学能力試験の成績で合否が決まるもの。 随時募集はいわゆる推薦入試で、内申点やボランティア活動、受賞歴、読書活動等、学校生活に関連する諸活動が記録された学生生活記録簿や、論文などの成績を元に選抜されます。

良い大学を出なければ有名企業に就職できず、その先の人生に大きな影響を及ぼすため、皆とにかくトップクラスの大学入学が目標! 特にソウル大学、高麗大学、延世大学はその頭文字のアルファベットをとってSKYと呼ばれ、多くの受験生がこの名門大をめざします。

受験戦争に勝つためには、本人の努力はもちろんですが、情報力や経済力など親の力も不可欠だと言われているのが韓国の大学受験。2018年に上流階級の大学入試や私教育、学歴至上主義などをテーマにしたドラマ「SKYキャッスル」がリアルな韓国の風潮を描き大ヒットしましたが、放送当時、怖いもの見たさでこのドラマを鑑賞していたという保護者が大勢いました。
 

大学受験の準備は幼少期から

大学受験の準備は未就学の頃から既に始まっていると言っても過言ではありません。 幼稚園児でも、美術やピアノ、英語、数学の塾を掛け持ちして通うことは珍しくなく、就学すると論文や化学など今後の進路に必要な分野の塾を増やしていきます。子ども数人のグループを作り、定期的に自宅に人文社会や韓国史の教師を招聘する家庭も。

小学生が通う塾であっても、週2回以上の授業は当たり前。英語や数学などに至っては、毎日1時間ずつ、あるいは週2回、一度に3時間ほど授業を行うスタイルが多く、2~3種類塾に通えばもうそれだけで放課後の時間はいっぱい。それ以上通う子どもたちも多いので、その多忙ぶりが伺えます。

また、一部の私立および特殊高校を除いて高校受験はなく、基本的に中学校の内申点を元に高校が決まります。それだけでも常に良い成績を維持する必要があるわけで、普段のテスト勉強はもちろん、大学入試の準備に多くの時間を費やせるよう、幼い頃から早めに色々な分野の勉強をすることになるのです。

この「先行学習」をいかに早く進めるかが受験の勝敗を決める一要因になるとも考えられており、例えば小学6年生でも、既に中学1年生、2年生の学習を塾や家庭で進めている子どもは珍しくありません。入試の時期が近づくと、修学能力試験や推薦入試のための対策を練ってくれる入試コーディネーターに受験のプロデュースを依頼するケースもあります。
 

社会問題でもある私教育

少しでも良い条件で受験すべく、私教育を頼りにせざるを得ない状況は、様々な側面で問題となっています。

2020年に教育庁と統計庁が発表した「小中高生の私教育費調査結果」によると、小学生の83.5%、中学生の71.4%、高校生の61.0%が私教育を受けているという結果でした(※2)。

私教育にかかる費用の負担を改善するため、2015年には「先行教育規制法」が発効されましたが、効力はほとんどなく、2014年に66.8%だった私教育参加率は、2019年には74.8%とむしろ6.2%も増加しています(※3)。

小中高生の1人当たりの平均私教育費は2015年には24.4万ウォンだったのが、2019年には32.1万ウォンまで増加。高所得層は月平均53.9万ウォンで、これは低所得層の5倍以上。こういった格差が大学受験にも影響していると考えられており、問題が提起されています。

学校が開催する保護者対象の勉強会などでは、「私教育なしで勉強のできる子に育てる」という講義が行われたり、塾に通わせない保護者の教育ノウハウが教育庁のYouTubeチャンネルで公開されたりと、私教育減少をめざして保護者に訴えかけていますが、こういった努力もあまり効果はないようです。
 

韓国の大学共通テストの様子は

さて、こうして苦労して迎える修学能力試験。受験生の長年にわたる苦労と努力は家族だけでなく、国民全員が周知のところ。となれば、社会全体で応援するのが韓国です。アパートの階下に高校3年生がいる世帯が、試験前日は気を遣い、子どもを連れてホテルに宿泊したという話を私も聞いたことがあります。

試験当日は、試験会場に向かう受験生を配慮し、小中高の登校時間が遅らされ、試験会場付近には警官が配備されます。遅刻しそうな学生を乗せて走る白バイの様子は毎年ニュースで見かける恒例のシーン。2021年度修学能力試験はコロナの影響で例年になく静かに始まり静かに終わりましたが、毎年この日は受験会場に後輩や家族が集まり、打楽器持参で応援したり、応援メッセージが書かれた横断幕を持って激励する人たちでにぎやかなのがお決まりの光景。芸能人もこの日のためにこぞって応援メッセージを出すほどの一大イベントなのです。

修学能力試験が終わった日の夜、受験生たちが繁華街に繰り出し、友人同士苦労を労うのも恒例。また、カフェやレストラン、美容院、ジム、あらゆる店で 試験票を見せると割引になるというお疲れ様イベントが数週間続きます。修学能力試験は、国民全員が緊張感と解放感を共有する、ある意味冬の風物詩とも言えるのです。
 

課題の多い大学受験

ただ、選抜方法としては、随時募集の比率が高く、2020年度は随時募集が77.3%、定時募集が22.7%でした。韓国では親の経済力により、子どもの人生が決まるという考え方をスプーンの色に例えた階級論があり、経済力ある家庭の子どもを金のスプーンに例えることがあります。特に随時募集は学生記録簿に良い内容を盛り込むため、私教育等でカバーできる富裕層に有利な制度だという批判があり、「金のスプーン」選考と言われることも。学生記録簿を負担に感じる学生や保護者の間からは定時募集の割合を増やすべきだとの声があがっており、受験制度の一部改編が予定されています(※4)。
 

それでも就職は難しい

こうして苦労して大学に入学しても、希望通りの職業に就くのは至難の業。大企業と中小企業間の賃金格差は大きく、皆できるだけ有名企業に入社しようとします。大学生が就職のために準備する履歴書は平均22枚以上と言われており、特に人気がある財閥系の大企業などは入社希望者も多く、名門大学出身者ですら叶わないことはざら。

専門学校などはあまりないものの、大学進学率は79.4%(※5)と高いため、ホワイトカラーばかりに希望者が集中してしまうという事情も。

さらに2020年はコロナ禍で採用が取り消しになったり、そもそも募集自体が激減したこともあり、就職難に拍車をかけました。受験戦争は過熱の一方であるのに対し、就職難は続くというアンバランスさが大きな社会問題となっています。

※1……定時・随時募集以外に、美術・音楽の特技や社会福祉的観点において特定の条件にある学生を優先的に選考する特別選考がある。

※2……小学生の割合が大きい理由として、教養や趣味などの分野の塾も含まれている点、共働き家庭が学童がわりに塾に送ったりするケース等も含まれている点が挙げられる。

※3……国会立法調査処2020 立法影響分析報告書「先行教育規制法上の専攻教育および先行学習誘発行為禁止などの立法影響分析」

※4……教育部 2022学年度大学入学制度改編法案では、修学能力試験の比率を拡大し、学生簿総合選考の透明性と公正性を強化すること等が盛り込まれている。

※5……韓国教育開発院 2020学年度全国一般高大学進学率によると、蔚山が89.9%と最も高く、ソウルが64.1%

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