夫への「奉仕」に代金を要求する妻
家事も立派な仕事。そう考えれば報酬が生じるはず。無償で尽くすのが当然と思わないでほしい。そんな思いを抱えて、夫からお金をとっている妻の気持ちとは。
「家族のために尽くすのが妻」と押しつけられて
ヒロエさん(42歳)が、親戚の紹介で6歳年上の男性と結婚したのは29歳のとき。堅い仕事をしているまじめな人だったが、生活をともにしているうちに、「オンナとはこういうもの」という固定観念の強いタイプだと感じるようになった。
「特に子どもが生まれてからは、保育園に預けて働くことにも反対されました。だけど子どもの将来を考えると、私も働くしかない。『そんなこと言うなら、もっと稼いできてよ』と言うと黙り込んでしまった(笑)。ただ、そういう人だから家事なんてほとんどできない。ゴミ出しと風呂掃除くらいがせいぜいです」
夫は、妻というのは家族のために尽くすものと思って育ってきたようだ。母親が専業主婦で、「家族のために」が口癖だったらしい。
「義姉は、『お母さんはそういう言い方をして家族を支配していた』と言っていましたが、男である夫は受け止め方が違うんですね。母親をこの上なく敬愛しています。私はあなたの母親にはなれないからとずっと言ってきました」
夫との間には常にすきま風が吹いているような生活だったという。
夕飯を食べると言ったのに……
ここ数年、夫は仕事が忙しくなり、家で夕食をとらないことも増えてきた。それなのに作っていないと怒るのだ。
「妻たるものは、夫が食べようが食べまいが食事を用意しておくべきだって。そんなのムダなだけでしょう。だから夫の食事を作ったらお金をとることにしました」
そもそも、ヒロエさんは夫の収入を知らない。生活費だけもらっている状態なので、これからは家事もそれぞれやる、それがいやならお金を払うことを提案した。最初のうち、夫は知らん顔をしていたが、ヒロエさんが夫の食事を作らない、洗濯もしないという実力行使に出るとお金を払うことを了解した。
「家族割引がありますから(笑)、夕食は600円。洗濯は1回300円。夜のお勤めを所望する場合は1回1000円。夫の両親や親戚関係で私が動いた場合は日当5000円。いろいろオプションもあります。これを始めて1年近くたちますが、なんとなく夫との関係が変わってきましたね」
「妻はこうあるべき」が通用しないとわかった夫は、つい先日、自分が行くべき親戚の集まりに出張で行けないことがわかると、「今回は1万円払うから、念入りに“嫁”してきてくれない?」と持ちかけてきたという。
「夫の心がどう変化したのかわからないけど、そう言われると、じゃあ、がんばってくると思える。結局、こういうのってどう割り切れるかが問題だと思うんですよね。なにも考えず、お金もらえるからやってくるわ、とするのも悪くはないかなと思っています」
もちろん、子どもの前でそんなやりとりはしない。夫に嫌悪感があるわけではないから、ヒロエさんは離婚などは考えていない。
「夫が定年になるまでに、少しでも考え方を変えていきたい。実はそれが狙いだったんですが、先の見通しはまったく立ちません(笑)」
ただ、日々のストレスが少しは解消したという点で、今のところは過ごしていけそうだという。