日本代表の戦いぶりが、南米のサッカー関係者を驚かせた。
南米の代表チームナンバー1を決めるコパ・アメリカ(南米選手権)で、日本代表が戦前の予想を大きく上回る戦いを見せた。
東京五輪世代のメンバーで臨んだコパアメリカ
今回のコパ・アメリカは、日本代表の主戦場となるアジアでの公式戦ではない。南米の公式戦に招待された。このため、シーズンオフにあたるヨーロッパ各国のクラブに所属する選手は、招集が叶わなかった。
クラブとの調整がついたのは18年ロシアW杯メンバーのDF植田直通とMF柴崎岳、森保一監督の就任とともに主力となったDF冨安健洋とMF中島翔哉、それにW杯3大会連続出場のGK川島永嗣とFW岡崎慎司といった選手たちである。チームの中心は東京五輪世代(※)となった。ベルギーのクラブでプレーする冨安、6月上旬に日本代表デビューを飾ったばかりの久保建英も、東京五輪世代だ。
初戦のチリ戦では苦戦。しかし強豪ウルグアイに……
現地ブラジルでは「南米の最強チームを決める大会に、日本は若い五輪世代を送り込んできた」と報道された。果たして、6月17日に行われたチリとのグループリーグ初戦で、0対4の完敗を喫してしまう。
ディフェンスラインで植田と冨安が、中盤で柴崎がチームを落ち着かせようとするが、実に6人の選手が日本代表デビュー戦である。大会を連覇しているチリに圧倒されてしまうのも、避けがたいものがあった。
第2戦の相手はウルグアイだ。ヨーロッパのビッグクラブに在籍するルイス・スアレス(バルセロナ/スペイン)とエディンソン・カバーニ(パリ・サンジェルマン/フランス)の2トップは、大会屈指のの強力デュオである。
しかし、先制したのは日本なのだ。東京五輪世代の三好康児がゴールを奪う。スアレスのPKで追いつかれるが、後半に再び三好が得点する。最終的には2対2の引き分けに終わったが、ウルグアイのサポーターが大挙した完全アウェイの雰囲気のなかで、東京五輪世代が逞しい姿を見せたのだった。植田や柴崎に加えて川島と岡崎も先発したことで、若いチームに芯が通ったのも大きかった。
エクアドル戦でも再三チャンスは作った
エクアドルとの第3戦は、勝者が3位で準々決勝に進出できるサバイバルマッチとなった。ウルグアイ戦のメンバーをベースとした日本は、連戦の疲れもあって動きにキレを欠いている。それでも、前半に中島が均衡を破るゴールを決める。エクアドルにもワンチャンスを生かされ、1対1のまま試合は進んでいく。
終盤は日本が連続してチャンスを作った。途中出場のFW上田綺世と前田大然、中島や久保らが決定的なシュートを浴びせるが、2点目を奪うことはできない。試合は1対1のまま終了し、日本は決勝トーナメント進出を逃した。
コパアメリカで日本代表が南米を驚かせた戦いぶり
3試合で1分2敗という結果だけを見れば、成功とは言い難い。しかし、東京五輪世代がアウェイでの真剣勝負に挑み、ベスト8まであと一歩に迫ったのは評価されていい。
たとえばグループリーグ最終戦、森保監督率いる日本代表はエクアドルと1対1で引き分けた。勝てば決勝トーナメントに進出できる一戦で、勝ち切れる可能性を十分に感じさせながら、勝点1に終わってしまった。
物足りなさやもったいなさは募るが、8日間で3試合を戦ったのである。連戦による疲労を隠し切れないものの、選手たちは最後まで勝利への意欲を表わした。
驚くべきは終盤の攻防である。
消耗度がさらに激しさを増すなかで、決定的なシーンを作り出した。上田と前田が途中出場で投入されていたとはいえ、フレッシュな彼らに寄りかかったわけではない。2列目の中島と久保が起点となり、崩し役となり、複数の選手がフィニッシュに絡んでいった。
日本より試合間隔が1日短いエクアドルが、日本より早く足が止まったと言うことはできる。だからといって、モチベーションが低かったわけではない。勝点3をつかめば決勝トーナメントに進出できるのは日本と同じで、どこかピリッとしなかった彼らも、実際は勝利を欲していた。
試合後の記者会見では、エルナン・ダリオ・ゴメス監督が地元メディアと激しくバトルした。1勝もできずに大会を去ることになったため、「辞意はないのか」と何度も詰め寄られた。コロンビア出身の指揮官はそのたびに強い口調で反論し、メディアを納得させる材料として日本の奮闘もあげた。
「とても統制がとれていて、スピード豊かに攻撃をしてくるチームだった」とし、「ウルグアイに勝っているのですよ。当たり前に勝つことはできない」と語った。
コパ・アメリカに出場したチームは、先述のとおり本当の意味での日本代表でなかった。しかし、選手たちは日本代表にふさわしいプレーを見せ、はるか南米の地で日本サッカーの価値を高めたのである。
カタールW杯予選に向けて日本代表の「選択肢」が増えた
コパ・アメリカで思いがけずチームが奮闘したことにより、日本代表と五輪代表はどちらも底上げをはかることができた。トゥーロン国際とコパ・アメリカで東京五輪世代を強化でき、日本代表の選択肢を増やすことにつながっている。
これまでスケジュールが重なってしまうことが多く、森保監督は兼任のメリットを生かせなかった。だが、チームとしてはぶっつけ本番で臨んだコパ・アメリカで、東京五輪世代と日本代表をスムーズに融合させた。ふたつのチームにしっかりと目配せをしてきたからだろう。
日本代表の次のターゲットは、9月開幕のカタールW杯予選となる。ここから先は再び、メンバー入りを巡る競争が始まる。ヨーロッパのクラブに所属する選手も通常どおりに参加でき、その時々でベストといっていいチームが編成されていく。FC東京からスペインの超名門レアル・マドリードへの移籍が決まった久保は、これから海外組のひとりとしてチームに加わっていくことになるだろう。
5月末から6月にかけての活動を通して、日本代表として戦うことに現実感を持つ選手は増えている。いまはまだ招集されていない東京五輪世代も、コパ・アメリカに刺激を受けたことだろう。日本代表で戦いたいとの意欲を持った選手が多いほどに、チームは逞しくなっていく。
(※)男子サッカーの五輪競技は年齢制限があり、大会開催時に23歳以下の選手に出場資格がある。そのほかに、年齢に関係なく3人の選手を加えることができる。これをオーバーエイジという。