セックスレス……せっぱつまった妻は
一昔前は、妻たちは「うちはセックスレスなの」と言えない状況だった。それは「夫に女として見てもらえない女性」と自ら認めることにつながるからだ。だが、現代は妻側が「夫とはしたくない」という時代。セックスレスであっても、決して妻がみじめなわけではない。それどころか、「夫婦はすでに男女ではなく家族なのだから、レスであるのが当たり前」という雰囲気さえある。
とはいえ、40代で「もうセックスはいらない」と言い切れる女性は多くない。夫婦だからその気になれないが、相手が変わればまだまだ「女として」自分を輝かせたいと願っているのだ。
「同い年の夫と結婚して20年、共働きでがんばってきました。子どもたちとはオトナ同士のような会話ができるようになってきたので、家族としての関係は悪くないと思っています。夫とはどんどんトモダチ化していますね。そのまま安穏と暮らすのもひとつの方法。だけど私は刺激がほしかった」
マスミさん(47歳)はそう話す。夫とはしたくない。だがこのまま「オンナ」として終わってしまうのはなんだか寂しい。恋のひとつくらいしてもいいのではないか。家庭にごたごたを巻き込まない自信はあった。それくらいコントロールできなければオトナの女とは言えない。そんなふうに感じていたという。
「だからといって具体的に恋愛を求める行動を起こしたわけではありません。ただ、いつ恋をしてもいいような心の準備というか、下地はあったような気がします」
恋が降ってきた
この春、上の子が大学生になった。一段落したなとほっとしたとき、「恋が降ってきた」とマスミさんは言う。相手はときどき顔を合わせていた取引先の男性で、3歳年下だった。
「この春から彼と今までより頻繁に仕事をするようになったんです。たまたま仕事がずれこんだので一緒にランチをとる機会があって。『今度ぜひ夕飯でも』と言われて、社交辞令だと思ったからいいですよって言っていたんです。そうしたら帰りがけに『明日はどうですか』って」
ストレートな誘いに悪い気はしなかった。なんとはなしに、この人は自分を好いているという確信があったから。
「翌日、一緒にディナーに行きました。もともと明るくてノリのいい人だから、ところどころで口説き文句を挟んでくる。それも楽しかったですね。だから言ったんです。『あなたの軽い口説き文句に乗ったらどうなるのかしら』って。すると彼、怯むことなく『楽しいですよ』って。仕事がらみの相手だとめんどうかなと一瞬思ったんですが、じゃあ、楽しいことしてみる?と軽く言ったら、彼は笑っていました。でもすぐ会計をして私をタクシーに押し込んだんです。電光石火。仕事より素早かった(笑)」
軽いノリでホテルへ行ったが、肌を合わせて驚いた。それまで経験のない「楽しくてリラックスできるセックス」だったから。
「おしゃべりしていたらいつの間にか服を脱がされていて、ちょっとエッチな言葉を囁かれつつ感じてしまって。終わってみたら、とても気持ちがよくてとても解放された気がしました」
オンナとして通用することがわかれば深入りはしなくてもいい。一夜限りの恋でもいい。そんなふうにも思っていたマスミさんだが、彼とは関係を続けたかった。
「お互いに家庭があるから家庭優先。絶対に誰にもバレないように気を配る。それだけを約束して、月に1、2回、ふたりだけで過ごす時間を作っています。つい先日、うちの会社の人たちが彼を見て『あの人、最近、なんだかいい男になったよね』と言っているのを聞いて、ちょっとうれしくなりました。オトナの秘めた恋は、秘めているがゆえに、よりステキになれるのかな、と。私自身もそんなふうに噂されていたらうれしいですけどね」
オトナの恋はむずかしいものだ。重荷を背負いすぎれば荒むし、肉体だけと割り切れるものでもない。人生経験を知恵に変えて、ふたりで踏ん張っていくものなのかもしれない。