「ザ・ドレス」の画像が引き起こした文化的現象
2015年2月、FacebookなどSNSに投稿され、ドレスの色が「青と黒」なのか「白と金」なのかで論争と話題になった「ザ・ドレス」の画像を覚えていらっしゃいますか?
結婚式を控えたスコットランドのカップルが投稿したドレスの画像は、#thedress、#whiteandgold、#blackandblueといったハッシュタグとともに拡散されました。数多くの著名人からも関心を集め、テイラー・スウィフトやジャスティン・ビーバーは黒と青に見えたと述べ、キム・カーダシアンは白と金に見えたと主張したことから、世界各国のメディアでも報道されるようになり、ある種の文化的現象を引き起こしました。
「ザ・ドレス」の画像をひとつのきっかけに、多くの人々が色の見え方の多様性に気づかされたのではないでしょうか。
そして、「ザ・ドレス」は、ローマン・オリジナルズ社の製品で、青と黒であることが判明すると、同社の公式ウェブサイトへのアクセスが急増し、ドレスは30分で完売したと言います。売り手が意図しないところで注目を集め、ヒット商品となりました。
色を映し出すスクリーンは脳内にある
論争が過熱する過程で、白と金に見える人は左脳派(論理、数学重視)、青と黒に見える人は右脳派(直感的、クリエイティブ重視)といった俗説もあらわれましたが、「ザ・ドレス」の画像をひとつのきっかけに、「カラーアピアランス(color appearance、色の見え)に関する研究が進んでいます。
人間は視覚が非常に発達しています。色は目の前にあると感じますが、実は脳の中でつくられます。脳内でつくられる色は、人によって異なります。しかし、「ザ・ドレス」の写真のように大きな個人差が生じる事例は稀です。
色の恒常性とは?
人によって色の見え方が異なる原因のひとつは照明光だと考えられています。なぜなら、人や動物は環境に惑わされずに本来の色をとらえようとするからです。そのため、周囲の光に関する情報を補正する機能が脳内に備わっています。これを色の恒常性と言います。
「ザ・ドレス」の画像は、白と金、青と黒というように、ドレス本体、あるいは、ドレスのレース部分、どちらか一方が無彩色に見えています。
ドレス本体が白く見える場合、画像上のドレス本体の画素の色(薄い青色)が照明光の色(青色光源)だと解釈しており、ドレスのレースの部分が黒く見える場合、画像上のドレスのレース部分の色(濃い金色)が照明光の色(白色光源)だととらえていると考えられます。
「ザ・ドレス」の画像は、周囲の光が青色光源なのか、白色光源なのか、どちらにも判断できる絶妙な色合いだったと言えます。そのため、画像が出回ってから3年近くたった今でも、研究対象として活用されています。
2018年3月に発表された、東北大学電気通信研究所の栗木一郎准教授の研究によると、15名の被験者による「ザ・ドレス」の色の見え方を検証したところ、人間の色覚は照明光の色と明るさについて、それぞれ独立して処理している可能性が示唆されました。人の脳内で起こる「色情報計算の仕組み」がどのように解明されていくか、今後の展開にも注目です。
【論文情報】
A novel method of color-appearance simulation using achromatic point locus with lightness dependence(i-Perception)
URL:http://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/2041669518761731