日ハム日本一は、栗山監督の指導抜きに語れず
2016年のスポーツ界のマネジメントMVPは誰かを考えてみました。今年のスポーツ界はオリンピックで多くの名勝負が生まれ、サッカーではJリーグチャンピオン鹿島アントラーズがクラブワールドカップ準優勝の大活躍。プロ野球では北海道日本ハムファイターズが大逆転で日本一に輝くなど、多くの競技で話題性の多い1年でした。
そんな中で、特にマネジメントの立場からアスリートたちの活躍をリードしたという意味でMVPを選ぶなら、日本ハムファイターズ栗山英樹監督をおいて他にいないと思っています。逆転に次ぐ逆転の日本一も、今年新しい時代のスーパースター誕生を強く印象付けた、二刀流・大谷翔平選手の大活躍も、栗山監督の指導抜きには語れないと思うからです。
中田翔、大谷翔平を支えた「信じる力」マネジメント
栗山監督の独自マネジメントの特徴を一言で言い表すなら「信じる力」でしょう。特に「選手を信じる」という点に関しては、本当に素晴らしい指導者であると思わされることばかりでした。例えば主砲・中田翔選手の絶不調時のエピソードが、それを如実に物語っています。
真夏に首位ソフトバンクを猛追していた折、中田は極度の打撃不振に。プレーに4番打者のプライドが感じられなくなった彼を、監督は試合前に監督室に呼びました。先手を打って「二軍に落として欲しい」と申し出た中田に、監督は言いました。「ファイターズの四番が二軍に逃げるのか。もう一回一からがんばろう。中田翔で勝負してダメだったら俺は納得できる」。これ以上に信頼感、期待感を感じさせてくれた葉はなかったと、中田は回想します。胴上げの陰で涙した彼の脳裏には、あの日の光景があったのは間違いありません。
若きスーパースター大谷翔平選手も、「栗山監督がいなかったら、今の僕はない」と断言しています。入団以来、プロ野球OBをはじめとした「評論家先生」の声の大半は、「二刀流は無理」というもの。3年目の昨年、投手としては最多勝他4冠を手にしたものの、打撃は不調で打率2割そこそこ、ホームランは5本。評論家筋の意見は、ほぼ全員「投手に専念させるべき」。しかし、栗山監督に迷いはありませんでした。「翔平ならできる」。その思いで今年は『リアル二刀流』にも挑戦させ、年間MVPを取るほどの大活躍につなげたのです。
「先発でいける」「絶対に活躍できる」
日本シリーズで見せた「信じる力」は、2勝2敗の第五戦1対1同点2アウト満塁の場面でした。打順は、シリーズ大ブレーキの西川遥輝選手。「代打もやむなし」と多くのファンが思ったこの場面で彼をそのまま打たせ、結果はなんとサヨナラ満塁ホームラン。「不振でも試合後の打撃練習を欠かさない遥輝の姿勢は、必ず報われると信じていた」。年間5本しかホームランを打っていない選手が、あの場面でホームランを放つ。「野球の神様はいるんだとあの時思った」と目を赤く腫らして監督は言いました。
他にも前半戦絶不調のリリーフエースを、「先発でいける」と本人も戸惑うような転向をさせて大再生したり、「絶対に活躍できる」と信じた外国人選手をダメでも使い続けて日本野球になじませ、結果ホームラン王を取らせたり…。栗山監督の「信じる力」は、選手たちを次々活性化させ驚くべき成果をあげています。なぜそれができるのかと問われた監督は、迷うことなく一言、「何が選手のためになるのかを考えれば、自然と『信じる』ことになる」。
「ピグマリオン効果」は社員育成にも役立つかも
教育心理学で「ピグマリオン効果」という有名な理論があります。「期待をしているぞ」と言われ続けた人は、その期待に応える成果を出すようになる、というものです。栗山監督は、東京学芸大学卒のインテリ監督で、教職免許を持っているというプロスポーツ界では異色の存在。おそらくは、教育心理学を知るであろう監督ならではの育成スタイルが、そこにはあるのだろうというのが想像に難くないところです。
部下が育たない、担当者の実績が伸びない、若い社員をどう育てていいのか分からない…。そんなお悩みを持つ経営者や上司は世に多いものです。栗山監督の「信じる力」を参考に、新しい年の育成方針を検討してみてはいかがでしょうか。