待っていたのは、残酷な結末だった。
プロ野球に日本シリーズがあるように、サッカーJリーグにはチャンピオンシップがある。Jリーグは2ステージ制で争われており、第1、第2ステージの優勝チームが年間王者を争うのが基本だ。ただ、ステージ優勝を果たした2チームが、年間勝点でも1位と2位になるとは限らない。そこで、今シーズンは第2ステージ優勝で年間勝点1位の浦和レッズ、ステージ優勝には届かなかったが年間勝点で2位の川崎フロンターレ、第1ステージ優勝で勝点で3位の鹿島アントラーズが、チャンピオンシップに出場した。
年間勝点3位の鹿島が勝利する「波乱」
まずは準決勝で波乱が起きた。年間勝点2位の川崎が、鹿島に敗れたのだ。ステージ優勝した鹿島の勝利が、なぜ波乱なのか?
プロ野球で言うところのレギュラーシーズンで、川崎は勝点72を記録した。一方の鹿島は勝点59である。川崎が22勝6分6敗だったのに対して、鹿島は18勝5分11敗だ。シーズンを通した安定感で鹿島を上回る川崎の敗退は、波乱と呼んでいいものだったのである。
浦和と鹿島が対戦した決勝戦でも、年間勝点の優位性が覆された。
鹿島のホームで開催された11月29日の第1戦は、浦和が1対0で勝利した。決勝戦はホーム&アウェイで争われ、1勝1敗の場合は総ゴール数の多いチームが勝者となる。それでも優劣がつかなければ、敵地での得点を2倍にして計算する。アウェイで勝利をつかんだ浦和は、この時点で年間王者に大きく近づいた。
ところが、12月3日の第2戦で浦和は、1対2の敗戦を喫してしまう。2試合のトータルスコアは2対2だが、アウェイでより多くのゴールをあげたのは鹿島である。浦和はリーグ戦を23勝5分6敗で終え、鹿島より「15」も多い勝点74を獲得したにも関わらず、年間王者には就任できなかったのだった。
勝ち抜くにふさわしい鹿島アントラーズ“らしさ”
ここまで読んだ方は、鹿島が優勝をかすめ取ったような印象を抱くかもしれない。だが、彼らの戦いはチャンピオンシップを勝ち抜くのにふさわしかった。
浦和との第2戦は、前半開始早々の7分に先制ゴールを許した。それでも、アウェイの雰囲気にのみこまれることなく、前半のうちに同点に追いついた。
3大タイトルと言われるJ1リーグ戦、リーグカップ、天皇杯を、鹿島は過去に17回制している。クラブのショーウインドーに飾られるカップや盾は、Jリーグのどのクラブよりも多い。そして、接戦を制する勝負強さは、クラブの伝統として受け継がれている。
浦和との第2戦で言えば、2対1とリードしたあとの戦いに“らしさ”が凝縮されている。残り時間は10分強で、浦和は1秒でも時間を無駄にしたくない。相手の心理を読み切ったうえで、鹿島は効果的に時間を使った。守備を固めて逃げ切るのではなく、ゴールへ迫ることで相手にプレッシャーを与えていたのだ。
鹿島の勝因を、文字で書くのは簡単である。だが、伝統とは目に見えるものではない。選手が入れ替わるなかで受け継いでいくのは、責任感、使命感、義務感といったものが高次元で重なり合ってこそである。
7年ぶり8度目の年間王者就任を、石井正忠監督は「今年はタイトルを取ることが義務づけられていた」と話した。レギュラーシーズンの勝点では川崎にも、浦和にも及ばなかったが、チャンピオンシップの鹿島は年間王者の肩書に恥じない戦いを見せた。
残酷な結末のすぐそばには、必然の事実があったのだ。
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