夏には記録的な猛暑、冬には大寒波と、極端な暑さや寒さが相次ぐ今の時代、1年中快適に過ごすためには冷暖房が欠かせません。一方で、エネルギーになる資源の多くを国外からの輸入に頼っている日本では、光熱費の高騰や、エネルギー供給そのものへの不安がある人も多いのではないでしょうか。特にテレワークなどで家で過ごす時間が長い現代人は、家庭での省エネを考える必要があります。
例えば住宅の断熱性が高まれば、外気温の影響を受けにくく、冷暖房を稼働させても省エネになることが期待できます。そこで今回、物件ごとに温熱計算をし、それぞれに最適な断熱性能を施す「エコキューブ」のリノベーションを実際に体感ルームで体験してみたところ、冷暖房費を節約しながら1年中快適に過ごせるだけではなく、健康についても注目したい点があることが見えてきました。
住宅の断熱性能は健康にも影響する?
すきま風があるような昔の日本住宅に比べると、近年の住宅は気密性が高まり生活しやすくなっていますが、人間にとって過ごしやすい環境は、実はダニやカビにとっても快適なものです。室温25℃前後、湿度が70%前後になると、ダニやカビが増えやすくなります。冬などは窓ガラスに結露が起きると、カビが発生しやすくなり、そこからダニの繁殖にもつながります。
ダニが大量に発生すると、その死骸やふんがアレルギーの原因になり、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などの症状が屋内でも出てしまうことになります。主にダニが原因となる通年性アレルギー性鼻炎の有病率は、1998年の18.7%から2019年には24.5%と増えています。
ダニやカビに影響を与える結露を減らすにはどうすればよいのでしょうか。単に住宅の気密性が高いだけでは、外気温と室温との差が大きくなり、結露が多くなりますが、サッシや外壁の断熱性能が高ければ、外気の影響を受けにくくなり、結露が発生しにくくなります。また、窓枠はアルミサッシより樹脂製サッシの方が結露は少なくなります。結露が減ると、アレルギーなど健康被害の原因となるダニやカビの発生も少なくなり、結果的に関連する疾患の改善につながると考えられるのです。
こういった高断熱住宅の健康への影響については国土交通省やさまざまな研究機関で調査・研究が行われています。
高機能換気システムの健康面でのメリット
もう1点、筆者が注目したのが「換気システム」です。先ほど述べた結露を防ぐためにも十分な換気が有効ですし、感染症への対策からも換気が推奨されていますので、窓を開けなくても効率よく換気できるシステムは重要です。今回見たエコキューブのリノベーションでは、熱交換ができる高機能換気システムに高性能フィルターを搭載していました。
高性能フィルターのおかげで、換気によって屋外の花粉が屋内に侵入することも少なくなります。例えばスギ花粉は日本では2月から4月頃まで多く見られる花粉で、換気をすれば屋内に入ってくることになります。スギ花粉症の有病率は、1988年の16.2%から2019年には38.8%まで増加していて、対策が必要です。
アレルギーを起こす物質そのものを少なくすることは、アレルギー対策の1つでもあります。アレルギーの有病率が増えている中、気密性と換気の両立は重要なのです。
部屋間の温度差がない生活にすれば体にストレスがかからない
高断熱の住宅は外気温の影響を受けにくく、冷暖房が稼働していても省エネで、1年中快適な環境が維持されます。また、上の写真のように部屋間の温度差が一定に保たれている環境(※)であれば、体にとってもストレスを減らすメリットが期待できます。
例えば、冬場に寒い脱衣所から温かいお風呂に入ることで、短時間に急な寒暖差を経験し心臓に負担がかかるヒートショックの危険性はよく知られています。
温度が下がると血圧が上がり、温度が上がると血圧が下がります。全ての人ではありませんが、特に高齢者は、寒暖差によって血圧が急に上昇する場合、心臓への栄養血管である冠動脈の内腔が狭くなり、さまざまなホルモンが産生されます。血液凝固に関わる因子も変動し、血の塊である血栓も作られやすくなります。結果として、高血圧による脳出血やくも膜下出血、血栓による心筋梗塞や脳梗塞、ホルモン異常による不整脈が起こることになるのです。
そのため、冬の入浴などは注意が必要とされていますが、高断熱住宅で、エコキューブのリノベーションのようにどの部屋でも温度が一定に保たれている快適な環境では、そうした危険性が少なくなる可能性があると考えられます。
断熱性が高く、高機能な換気システムを備えた住宅へのリフォームは、アレルギー対策ができ、部屋間の温度差がないという点で、健康面のメリットも感じられる快適な住居と言えるでしょう。
※ 室内建具を開放状態にする必要があります