ノーベル医学生理学賞の授賞式出席のためスウェーデンを訪れている大隅良典・東京工業大栄誉教授(71)がストックホルムのカロリンスカ研究所で公式記者会見と記念講演に臨んだと共同通信が報じている。
出典:『大隅氏ストックホルムで公式会見 「素朴な疑問を追究してほしい」』
大隅栄誉教授が「オートファジー」と呼ばれる仕組みを解明したことが評価され、受賞が決まった。この「オートファジー」について、医師の今村甲彦氏がAll Aboutの『ノーベル賞で話題の「オートファジー」とは何か』で次のように解説をしている。
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「オートファジー(自食)」とは自分で自分を食べること?
オートファジーとは、ギリシャ語の「自分(オート)」と「食べる(ファジー)」を組み合わせたもので、「自食」を意味する。この自食が我々の細胞の中で行われているのだという。
「『自食』と言っても、タコが自分の足を食べるような、自身の細胞を丸ごと食べてしまうようなものではありません。正確には、細胞が細胞内の一部を分解する(=食べる)行為を示すものです。細胞が自分を食べるというと何となく野蛮な感じを受けるかもしれませんが、自食は生命が生きていく上で、重要な枠割を担っていることが明らかになってきたのです」
オートファジーで食べられる「タンパク質」の知られざる働き
今村氏によると、オートファジーで食べるのは主にタンパク質。
我々の身体は、水を除くと約7割はタンパク質で構成されている。タンパク質は、ヒトが生きていく上で、欠かすことができない働きをしており、例えば、酸素を運ぶ「ヘモグロビン」、食物を分解する「消化酵素」、免疫をつかさどる「抗体」はタンパク質という。また、筋肉を動かす働きやDNAを合成する働きなど、生きていく上で必要なほぼすべての場面にタンパク質が関与しているとされる。
なおタンパク質には数分~数カ月の寿命があるという。
オートファジーでタンパク質をリサイクル
我々の身体を維持していくには、理論上毎日約300gのタンパク質が必要とされているが、食事で摂取しているタンパク質は約80gで、220gも不足しているのだという。
これを補っているのがオートファジーによってリサイクルされたタンパク質なのだと今村氏は説明する。オートファジーで細胞内のタンパク質を食べてアミノ酸に分解し、アミノ酸から必要なタンパク質を作り出す。不足するタンパク質は、細胞内でリサイクルして補われているという巧妙な仕組みが明らかになったのだ。
「オートファジーが働くと、一時的にタンパク質を摂取できなくても、自分で作り出すことが可能になります。たとえば山の中で遭難して食糧がないような場合でも、水さえ飲んでおけば一週間ぐらいは生きていけます。実はここにもオートファジーのはたらきがあります」
逆に、オートファジーを人為的に起こすことができないようにしたマウスは、出生後約12時間で死亡してしまうことが明らかになっており、つまりオートファジーは飢餓に対して重要な働きを担っていると考えられているのだという。
細胞内の掃除屋でもあるオートファジー
タンパク質を作り出すだけではなく、オートファジーは「細胞内の掃除屋」としての役割もあるという。
細胞内はタンパク質などが常に合成されているが、出来損ないのものも存在し、ゴミとして蓄積されている。ゴミは定期的に掃除をしていかないと、細胞内がゴミだらけになってしまうため、オートファジーなどの働きで、定期的に細胞内を掃除するという仕組みも備わっているのだという。
何らかの原因によりオートファジーによる掃除が不十分になると、異常な形をしたタンパク質が細胞内に蓄積されていくと今村氏は述べる。このゴミの蓄積が、アルツハイマー病などの神経系の病気を引き起こしている原因とも考えられている。
オートファジーの研究により難治性の病気の解明も
オートファジーと腫瘍の関係も明らかになってきているという。オートファジーが抑制された状態が長期間続くと腫瘍が発生しやすいとされており、逆にオートファジーが腫瘍の増殖を助けているとも考えられ、オートファジーと腫瘍の関係を解明する研究も行われている。
また、炎症性腸疾患であるクローン病とクローン病の関係も研究されているほか、オートファジーの機能低下と病気との関係から、抗加齢医学への応用も検討されている。
「オートファジーの解明により、がんや感染症、免疫系の病気や認知症などに対して、新たな治療法を提供できる日も遠くないかもしれません」
■参考文献
・細胞が自分を食べる オートファジーの謎(水島昇著)
・日経サイエンス 2016 第46巻第12号
・池上彰が聞いてわかった生命の仕組み 東工大で生命科学を学ぶ(聞き手池上彰、岩崎博史 田口英樹著)
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