伝説のコーン・ブラ1号はマドンナじゃない? ジャンポール・ゴルチエが新作舞台で明かした意外な実話

大胆なデザインでファッション界に革命を起こしてきたジャンポール・ゴルチエの半生を振り返る『ファッション・フリーク・ショー』が、東京で開幕。ゴルチエへのインタビューを、舞台写真や城田優さんらゲストとのレッドカーペットの写真を交えて紹介。(C)Marino MatsushimaMarino Matsushima

ジャンポール・ゴルチエ | 1952年フランス生まれ。ピエール・カルダンのもとで修業し、1976年にプレタポルテ、1997年にオートクチュール・コレクションデビュー。2004年からはエルメスのデザイナーも兼任。ファッション界の第一線で活躍する傍ら、マドンナら世界的スターや映画などにも衣裳を提供。フェミニズムやジェンダーフリーを芸術性をもって表現し続けた (C)Marino Matsushima
性別や体形を超越した大胆なデザインでファッション界に革命を起こしてきた、ジャンポール・ゴルチエ。彼の半生を振り返る舞台『ファッション・フリーク・ショー』が、30万人を動員したヨーロッパ公演を経て、5月19日に東京で開幕しました。
『ファッション・フリーク・ショー』最愛のパートナー、フランシスとの出会いを、“半身”をイメージさせる衣裳をまとい、パフォーマーたちがダンスで描く (C)Marino Matsushima

歴代のオートクチュール・コレクション200点以上を着こなしたパフォーマーたちが、ダイナミックなダンスで彼の波瀾(はらん)万丈の人生を描く舞台。半世紀近くにわたって世界のファッションをけん引してきたゴルチエが、本作に込めたメッセージとは? 開幕直前の彼へのインタビューを、城田優さんらスペシャル・ゲストを迎えて行ったレッド・カーペットやプレスコールの舞台写真を交えながらお届けします。
 

幼い頃に憧れた、老舗のミュージック・ホール

「僕は昔から、今回のようなショーを創ることを夢見ていました。きっかけは幼いころ、テレビで観たフォリー・ベルジェール(パリ9区にある老舗のミュージック・ホール)の映像。幕が上がって、大きな羽根をつけた女性が踊る姿に“なんてきれいなんだろう、僕もこの演出をやってみたい!”と憧れました。

『ファッション・フリーク・ショー』フォリー・ベルジェールの映像の前にダンサーが現れ、情熱的に踊り始める (C)Marino Matsushima

そこで、ナナという名の僕のテディ・ベアに、家にあったホコリ取りの羽根をつけて踊り子に見立てました。そしてイチゴのカゴにカーテンをつけ、ひもで引っ張るとナナが現れるようにして遊んでいたんです。僕の中には、ファッションよりも先に、ショーに対する興味がありました」
 

伝説のコーン・ブラ1号はマドンナではない?

「ファッション・デザイナーとしての原点も、テディ・ベアのナナ。3歳の時、叔父からクリスマスにもらって……本当はお人形が欲しかったのに、男の子だからとクマになってしまったのだけど(笑)……僕はナナにいろんなおしゃれをさせました。

『ファッション・フリーク・ショー』冒頭の映像に登場する“ナナ”

皆さん、1990年に僕がマドンナにデザインしたコーン・ブラ(先端がとがった前衛的なブラ)を覚えているでしょう? 当時は世界的な話題になりましたが、実はあれを最初につけたのはマドンナではなく、クマのナナなんです(笑)。ある日、祖母が読んでいた新聞に下着の広告が出ていて、その中のとがった形状のブラジャーが面白く見えました。そこで段ボールを巻いて似たものを作り、ナナにつけてみたのが、コーン・ブラ第1号。

他にも、当時の映画で流行していて、祖母が時々髪の毛につけたりしていたブルーのアイシャドーをナナに塗ったり、テレビの手芸番組で布地を切って真ん中に穴を開ければスカートができるんだと理解し、まねて作ったものもナナに着せました。今でもナナは、新聞紙にくるみ、靴箱に入れて大事に持っていますよ。散々いじったから、保存状態はあまり良くないけれど(笑)」
 

「変わっていることはすてきなこと」

「半世紀のキャリアを通して、ファッションについて表現したいことはやり尽くしたと思ったので、2020年にデザイナーとしては引退しましたが、子どもの頃のショーに対する情熱を思い出してぜひ形にしたいと思い、舞台に着手しました。モノづくりが好きで、ナナにどんな衣裳を着せたら似合うかなと考えるのが好きだった男の子が、大きくなってピエール・カルダンのもとで修行し、デザイナー・デビュー……という僕の軌跡を、ダンスや映像、音楽を組み合わせて描いています。

『ファッション・フリーク・ショー』ゴルチエ少年の中に芽生えたファッションへの情熱を象徴するように、歌手デミ・モンデインが『Light My Fire』を歌い、ラートに乗ったパフォーマーたちが次々と大胆なポーズを見せる (C)Marino Matsushima

プレタポルテのショーではいつも自分で選曲していたので、今回も僕自身が音楽を選んでいます。テーマ曲的に登場するのは、ナイル・ロジャースの『Le Freak』。フリークはシック、変わっていることはすてきなこと、自分らしくいることが大切だという本作のメッセージを凝縮させたタイトルです。
 

また、リズミカルでダンスと合わせやすい70年代後半から80年代のディスコ・ミュージックを、全般に使っています。最近、若い人たちの間でこの頃の音楽が注目されているので、僕らの世代と若い世代、両方に楽しんでもらえるのではと思っています。

『ファッション・フリーク・ショー』1幕終わりはフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドなどの楽曲を用いたエロティックなシーン (C)Marino Matsushima

振付に関してはマドンナなどのライブを手掛けているマリオン・モーティンが、多彩なダンスを振り付けてくれています。
 

僕のお気に入りは、一緒にブランドを立ち上げたパートナー、フランシスとの出会いのシーン。2人でボーダーのシャツを着て踊る姿がとてもロマンティックで、若い頃の僕らをうまく表現できたのではないかと思っています。また、今回の日本公演では初披露のシーンもあります。終盤にパフォーマーたちが集まってポージングをし、ファッション・ショーさながらの光景が登場しますので、ぜひ楽しみにしていてください」
 

「あらゆるものが美しい」

「このショーを通して皆さんに届けたいのは、サプライズ。こういう表現もあるのか! と驚き、ワクワクしてほしいですね。美の定義についてはいろいろな捉え方があって、中には僕の表現に否定的な方もいるでしょう。でも、いろいろな意見があっていい。僕自身、あらゆるものが美しいと思っています。だからこそ、過去のショーでは体形も国籍も、いろいろなモデルに出演してもらってきました。
『ファッション・フリーク・ショー』1976年のゴルチエ初のファッション・ショーを再現したシーン。今回の舞台にもさまざまな体型のパフォーマーが出演し、「あらゆるものが美しい」というゴルチエの理念を体現 (C)Marino Matsushima

最近のファッション界を見渡すと、1つのトレンドに縛られることなく、ある程度の幅広さ、自由さが感じられますが、SNSの普及で、誰かが自分のおしゃれを発信すると他の誰かに否定的なリアクションをされ、その人がそれ以上前進できない、という傾向があるのが気になります。でも、発信し続けることで少しずつ前進する。それが今のファッションなのかもしれません。
 

今回のショーをご覧になった方が、自分らしく生きていいんだ、人生を楽しもう! という気分になってくれたらとてもうれしいです」

『ファッション・フリーク・ショー』開幕前日のレッド・カーペットに登壇したゴルチエと、城田優さん、美弥るりかさん、七海ひろきさん、ナジャ・グランディーバさん、塩野瑛久さん。城田さんはスカーフ、七海さんはブローチ、ナジャさんはネックレス、塩野さんはサングラスとそれぞれにゴルチエがデザインした私物アイテムを取り入れ、美弥さんは大好きな蛍光イエローのファッションをチョイス。彼らの装いをゴルチエは「楽しみながら個性を表現していて素晴らしい」と称賛。塩野さん以外の4人は今回の日本公演の一部に日替わりで出演 (C)Marino Matsushima

<公演情報>
ジャンポール・ゴルチエ『ファッション・フリーク・ショー』5月19日~6月4日=東急シアターオーブ(東京都渋谷区)、6月7~11日=フェスティバルホール(大阪府大阪市北区)
 

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