初代モデルから5代目まで受け継がれる“ワークス”の血脈

 軽自動車は一時期こそ国民車として人気を集めたが、日本の高度経済成長期にともなって国民の所得が上がると、国内専用の軽自動車は一段低くみられる存在となってしまった。そんな状況に楔を打ったのが初代スズキ・アルトだ。1979年に47万円の車両本体価格で登場した初代アルトは、現在で言う価格破壊を実現。自家用車が一家に一台から一人一台時代への幕開けのモデルでもあった。それでも「所詮は軽でしょう……」という雰囲気があるなかで、スズキはあえて軽自動車にこだわり続けた。

 1984年に登場した2代目アルトワークスには、ターボ仕様やスズキとして軽自動車初となるDOHCエンジンを投入し、安価な軽自動車でもスポーティな走りが叶うことを提案。そして1987年には2代目アルトベースの初代アルトワークスがデビューする。グレード展開は、FFのRS-S、RS-Xのほか、ビスカスカップリング式フルタイム4WDを採用したRS-Rをラインアップ。以降、軽カースポーツの頂点に君臨し続け、現在に至る。
 
初代アルトワークスRS-X

 そんななかでアルトワークスファンを悩ませているのが、2021年発売された9代目アルトにはいまだワークスが存在しないこと。そこで昨年販売終了となった現時点で最新のアルトワークス、HA36S型を振り返る。
スペック以上のパワフルさを発揮する直3DOHCターボを搭載

 9代目アルトの発売から遅れること1年、2015年12月に5代目アルトワークス(HA36S型)が発売された。このワークスに先行する形でDOHCターボ搭載のターボRSがすでに発売されており、トランスミッションに2ペダル仕様のAGS(オート・ギヤ・シフト)を採用したターボRSのスポーティさを、さらにブラッシュアップした存在がアルトワークスだ。

 両車ともに660cc直3DOHCインタークーラーターボを搭載しており、ターボRSは最高出力47kW (64ps) /6000rpm、最大トルク98N・m (10.0kgf・m) /3000rpmであったのに対して、アルトワークスでは最高出力こそ変わらないものの、最大トルクは100N・m (10.2kgf・m) /3000rpmまで向上。アルト自体は軽自動車規格の見直しによって6代目アルトから車両重量が重くなったが、7・8代目モデルは高張力鋼板の採用や構造や設計を見直すことで軽量化を実現した。もっとも重たい4WD仕様であっても車両重量740kgと軽く、そこへ馬力自主規制値いっぱいの64psを誇るR06A型DOHCターボを搭載。スペック以上のポテンシャルを感じさせる、激辛ホットハッチぶりを発揮していた。

 

新設計の5速MTはもちろんAGSでも走らせる悦びが堪能できた

 シャーシはハーテクトと呼ばれるスズキの軽量高剛性仕様であり、フロントサスペンションは新設計のストラット式となり、リヤサスペンションは2WDにトーションビーム式、4WDにトレーリング式を採用。さらにワークス専用のKYB製ショックアブソーバが奢られたほか、荷室の実用性と走りの両立を図るためにコストをかけた作り込みがなされ、さらにアルミホイールも専用品となりワークスの名に恥じない装備を誇った。

 トランスミッションは、専用開発の5速MTとAT限定免許で運転できる5AGSを用意。MTは1速から4速をクロスレシオ化し、エンジントルクの厚い回転域でつながりの良いギヤ比とすることで、スポーティな走りとシフトチェンジすることの楽しさを追求。操作荷重を専用設計してダイレクトで節度感のあるフィーリングを実現させた。また、この時代に新設計の5速MTを用意するなど、コストの節約ぶりが有名なスズキとしては、相当気合を入れた改良が施されたと言えるだろう。もちろん2ペダル式のAGSモデルでも専用の変速制御によって一段とダイレクトな操作感を発揮。パドルシフトも備わることで、幅広い層に向けてアルトワークスを訴求したモデルとなった。

 

フロントには専用レカロシートを採用したスパルタンな仕立てに

 スタイリングは標準モデルとの差別化がしっかり図られている。インナーブラックのメッキベゼル採用ヘッドライトやカーボン調フロントバンパーアッパーガーニッシュ、ブラック塗装の15インチアルミホイールに加え、レッド塗装のブレーキキャリパーも装備。インテリアはフロントシートにレカロ社製シートやレッドステッチの本革巻きステアリング&シフトブーツ、ステンレス製ペダルプレートなど、スポーツモデルらしいあしらいは、メーターパネルも含めて走りにこだわるモデルに相応しいものであった。
 
5代目アルトワークスの専用レカロシート

 ただし、セミバケットタイプのレカロシートを採用したことで、運転席に座ったままヘルメットをかぶらなくてはならないシーンでは、頭上空間にスペースがなく車内で被れないという声もあった。その理由はレカロシート自体が肉厚な設計であり(それ故に快適なのだが)、シートレールの構造により着座位置(シートレールの構造による)が標準モデルに対して高くなっていることが原因のようだ。

 

5世代に渡りワークスを作り続けたスズキに感服! 次期型にも期待

 現時点で最後のアルトワークスとなる5代目アルトワークスは、優れたボディと最新設計のサスペンションなどにより、シャーシ性能は細部にまで煮詰めて送り出された。そして、今秋には新型アルトワークスがデビューするのではないか? と噂があちこちで飛び交うなかで、現時点で現行モデルにはワークスの設定がないことから、先代の5代目(HA36S型)の中古車価格は少しずつ高騰傾向にある。もちろん、新車価格自体が150万9840円〜165万6540円(2018年改良モデル)とリーズナブルであったことから、値上がり率が高いように感じてしまいがち。
 
5代目アルトワークスのリヤスタイル

 それなら次期型を……と考えたくもなるが、あくまでも噂やスクープの域を脱することができず、現状では出るとも出ないとも言えない。しかし、今後のスズキに期待したいのは、これからもワークスを作り続けること。もはやアルトワークスにはFFではなく4WDターボ×MT車一択のモデル構成で、ファンの期待に応えてほしい。そしてアルトワークスを愛するユーザーが、やがて家族が増えたことで、スイフトスポーツやソリオに流れていくような構図が出来上がれば、末永くスズキファンをつなぎ止めることができるはず。

* * *
 これまでもスズキはアルトワークスを大切にしてきたことで、このワークスモデルに触れてスズキファンになったユーザーも多いはず。アルトワークスはそれだけの歴史を築き、リーズナブルでありながらも走りはピリ辛なスポーツモデルを作り続けてきたスズキを愛するファンのために、今後もアルトワークスは必要な存在だと願いながら、新型の登場に期待したい。


TEXT:佐藤幹郎
提供:Auto Messe Web

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