「姿を隠すため」とは限らない! イマドキの新型車の「偽装ラッピング」の目的とは

新型車が発売前に公道でテストを行う際は幾何学模様のラッピングが施されていることが多い。発売前のクルマの姿形を隠すためと思われるが、最近では目的が変わってきているという。

怪しさを演出して発売前の話題作りにすることも

 発売前の車両が、唐草模様などのラッピングを施して、公道でテスト走行することがある。開発者によると「乗り心地やロードノイズ(路面の上をタイヤが転がる時に発する騒音)など、テストコースではわからないこともある」とのことで、自動車臨時運行許可番号標(仮ナンバー)を装着して、公道を走る。

 このときに行われるのが外観の偽装だ。発売前の新型車だから、外観のデザインをわからなくする。最近はラッピングを利用した偽装も増えた。ラッピングはボディにフィルムを貼るもので、通常は個性的なボディカラーに仕上げたり、イラストを描く時に使う。これが偽装にも利用され、唐草模様などの複雑なパターンが多い。目の錯覚を利用して、本来のボディスタイルがわからないように誤魔化すわけだ。
 

 ラッピングによる偽装は、錯覚を誘発することが目的だから相当に目立つ。N-ONE、N-BOX、CX-5のように、フルモデルチェンジを行っても外観の変化が小さな車種は、ラッピングによる偽装などをしないほうがむしろ目立たない。

 つまりラッピングによる偽装には、発売前に話題性を盛り上げるティザーキャンペーンの役割もある。今はSNSも普及しているから「怪しいクルマ発見!これは次期○○か?」などと拡散してもらえれば、発売前の関心も高まる。要は一石二鳥だ。

 

いまは隠すほど変化の大きいモデルチェンジ自体が減った

 唐草模様のテストカーが走るのは、発売が迫った開発の最終段階になる。最近は発売の数カ月前に予約受注を開始する事情もあり、仮に偽装を見て本当の外観が想像されても、その直後には販売店で概要が公表される。従って問題はなく、ティザーキャンペーンに都合良く活用されている。

 この典型が「東京オートサロン2022」に出品された「シビックタイプRプロトタイプ」だろう。シビックタイプRは、シビックの派生モデルだから、本来なら偽装を施す必要もない。敢えて偽装を行って注目度を高めた。そこで偽装にも、歴代シビックタイプRのシルエットを散りばめている。話題性を狙った。
 

 ちなみに外観がフルモデルチェンジのたびにカッコ良くなった1960年代から1980年代までは、クルマのデザインは秘匿中の秘匿事項だ。外観デザインを巡って、いわゆる産業スパイが暗躍したこともある。自動車雑誌が印刷会社からカタログの色校正紙を手に入れて、スクープとして掲載したところ、メーカーが窃盗事件として刑事告訴したこともあった。編集部も盗品故買の容疑で捜査を受けている。

 このような時代に比べると、今はクルマのデザインが安定成長期に入り、変化が乏しくなった。新型ヴォクシーのフロントマスクは少々奇抜だが、驚くほどではないだろう。ステップワゴンなどは完全に想定の範囲内だ。そのために新型車のデザインに対する取り扱いも、昔に比べると穏やかになった。これを象徴するのがラッピングによる偽装だ。偽装も多様化している。

Text:渡辺陽一郎

提供:WEB CARTOP 

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