かつて高級車の象徴だった「フードマスコット」

 フードマスコットやボンネットマスコットと言われても、聞き慣れないかもしれない。ボンネットの先端に付けられた立体のエンブレムのことと言えばわかりやすいだろう。そもそもメルセデスベンツが「スリーポインテッドスター」を付けていたのはお馴染みだし、ロールスロイスは今でもデザインを新しくしてまで装着にこだわっている。そのほか、躍動感あふれるジャガーの「リーピングキャット(ジャガー)」も有名だ。
 
 

日本車でも採用していた車種は多い

 日本車でも採用例はけっこうあり、代表的なのは日産のセドリックやグロリア。三菱のデボネアも付けていたし、プラウディアは比較的最近の採用例だ。またレストアで話題になったシーマにも付いている。さらに古いクルマでは、ダットサンのうさぎ(脱兎)やトヨタの豊田などがあった。しかし完全に禁止されてはいないまでも、現在では洋邦問わず、ロールスロイスなどの特別な例を除いて無くなっている。
 
 

安全性、空力、デザイン、いずれの面でも過去のものに

 日本では2001年に保安基準が厳しくなって、実質採用が難しくなっていることからわかるように、やはり安全性の問題が大きい。メルセデスのスリーポインテッドスターは可倒式になっていて対策がされていたが、いずれにしても出っ張っているのには変わりないことから一般的なエンブレムへと置き換わったというのが現状だ(Sクラスやマイバッハは現在も採用)。ちなみにロールスロイスについてはドアロックで収納されるという凝った作りになっていて、やはり安全性に配慮している。
 

 また、デザインの流れとして最近はなめらかな面を重要視する傾向にあるので、出っ張りとなるフードマスコットはデザイン性の邪魔になるというのも関係しているだろう。たとえば最近のSUVの先端にマスコットが付いていても違和感があるのは確か。ハリアーにライオンを付けたら面白いだろうが、デザイン全体のバランスは崩れてしまうだろう。ミニバンやコンパクトカーしかり。やはりセダンが似合って、クラシカルな雰囲気も漂ってくるものだ。

 

オーナーが個々に愛車の目印をつくったのが始まりだった

 ルーツを探ってみると1910年から1930年代にかけて流行した100年以上の歴史がある装備なのだが、当初はブランドを示すエンブレムではなかった。ロールスロイスの「スピリット・オブ・エクスタシー」(別名フライングレディ)は、個人的に作ったものがメーカー首脳陣の目に止まって正式採用されたものだし、目印やお守り的な意味合いもあった。また、愛車を飾るオリジナルアクセサリーとしても作られたものもある。
 

 芸術品としても珍重され、フランスの有名なガラス工芸作家であるラリックも、ガラスでフードマスコットを作っているほど。ちなみに豊田市の近くにあるトヨタ博物館はラリックが手掛けた作品をすべて収蔵している世界的にも稀有な存在となっている。装着例は減ったとはいえ、自動車の歴史において重要なパーツであると言っていい。
 

TEXT:近藤暁史
提供:Auto Messe Web

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