恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」 第55回

太宰治は鉄道がお好き? ゆかりの地を巡ってみた ~6月19日は「桜桃忌」~

太宰治と鉄道との関りは意外に強い。晩年を過ごした三鷹では中央線の跨線橋に足しげく通っていたし、短編「列車」では、汽車に関する細かい描写に驚く。また、郷里ではゆかりの鉄道車両や駅が点在している。そんな彼と鉄道にまつわる話題を、6月19日の「桜桃忌」を前にまとめてみた。

C51形蒸気機関車が登場する短編「列車」

鉄道博物館で静態保存されているC51形蒸気機関車


太宰治の最初の短編集『晩年』に所収されている短編「列車」は、以下のような文章で始まる。
 

『1925年に梅鉢工場といふ所でこしらへられたC51型のその機關車は、同じ工場で同じころ製作された三等客車三輛と、食堂車、二等客車、二等寢臺車、各々一輛づつと、ほかに郵便やら荷物やらの貨車三輛と、都合九つの箱に、ざつと二百名からの旅客と十萬を越える通信とそれにまつはる幾多の胸痛む物語とを載せ、雨の日も風の日も午後の二時半になれば、ピストンをはためかせて上野から青森へ向けて走つた。』
 

鉄道について無関心であったのなら、このような文章は書けまい。鉄道ファンではなくても、鉄道に相当関心があったのではないだろうか。もっとも、C51形蒸気機関車が梅鉢工場(帝国車輛工業となった後、東急車輛と合併、現在は総合車両製作所となっている)で製造された事実はないので、このあたりは太宰の勘違い、あるいは創作であろう。
 

太宰治が車番を書いたモデルと思われる客車はJR東日本のイベント列車で使われている


このC51形が牽引した列車は、上野発青森行きの103列車で、客車のうちの1両は「スハフ134273」だと太宰は記述している。これも該当する車番はなく、「スハフ34273(スハフ34200形)」の写し間違いあるいは何らかの意図をもって書き換えたのではというのが鉄道専門家の中での「定説」となっている。この形式は後にスハフ32形と改称され、JR東日本の動態保存客車の1両として現存している。
 

このように太宰治は、鉄道についていくつもの作品中でかなり詳細に書いている。鉄道ファンかどうかはともかく、「鉄分」の多い作家だったと言えるのではないだろうか。



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