モノコック全盛のいまでもランクルやジムニーが採用する「ラダーフレーム」! 古い構造のドコにうま味があるのか?

SUV人気は相変わらず高いですが、その多くは「モノコックフレーム」を採用し乗用車に近いクルマとなっています。一方、小はジムニーから大はランドクルーザーまで、本格的なクロスカントリー4WD車は「ラダーフレーム」にボディを載せるタイプがほとんどです。

「ラダーフレーム」とほかの車体構造との違いは?

 SUV人気は相変わらず高いようですが、近年、その多くは「モノコックフレーム」を採用した乗用車に近いクルマとなっています。その一方で、小はジムニーから大はランドクルーザーまで、本格的なクロスカントリー4WD車は「ラダーフレーム」にボディを載せるタイプがほとんどです。今回はこのラダーフレームに注目してみました。
 
 

クルマの原点とも言うべき車体構造が「ラダーフレーム」

 内燃機関を搭載したクルマが誕生した19世紀末から20世紀の初頭にかけて、ほとんどのクルマの車体構造は、フレームに前後のサスペンションを取り付けてエンジンを搭載し、そこにボディを架装するというものでした。ちなみに、フレームに前後のサスペンションを取り付けた状態を「シャシー」と呼び、それにエンジンを搭載したものを「ローリングシャシー」と呼んでいます。

 近年のレーシングカーではモノコックフレームにエンジンを剛結して搭載し、そのエンジンにトランスミッションを組みつけて、リヤサスペンションはミッションケースやデフのハウジングに取り付けるケースが一般的。エンジンを搭載しないとリヤのサスペンションが組み付けられない構造が多く、シャシーとかローリングシャシーの言い分けも、あまり意味を持たなくなってきました。

 フレームに話を戻すと、ボディと別体のフレーム構造でもっとも一般的なスタイルがラダーフレームです。これはラダー(Ladder=梯子)の名前通り、梯子型のフレームでクルマの前後方向に走る2本の太い主構造体に、クルマの左右方向に走る副構造体を組み合わせたもの。前者をメインフレーム、後者をサブフレームと呼ぶことがあります。
 
 

メインフレームが1本だと「バックボーンフレーム」

 ラダーフレームに似た構造でメインフレームが1本のパイプで構成されているものを「バックボーンフレーム」と呼んでいます。この太いパイプに前後のサスペンションやエンジン、ミッションやデフなどを組みつけてシャシー(ローリングシャシー)を構成していて、フロントエンジンの後輪駆動車では、バックボーンパイプのなかにプロペラシャフトを通しているのが一般的となっています。バックボーンフレームを採用していたクルマとしては、1920年代にチェコで生産されていたタトラがよく知られています。
 

 さらに、バックボーンフレームのメインパイプから横に梁を這わせてフロアパネルを貼ったプラットフォーム・フレームもあって、こちらはフォルクス・ワーゲンのタイプ1、いわゆる「ビートル」に採用されて広まっていきました。
 
 

ボディそのものが応力を受け持つ「モノコックフレーム」

 これに対して近年では、とくに乗用車ではモノコックフレームを採用するのが一般的となっています。モノコックフレームとは、ラダー形式やバックボーン形式など別体のフレームを持たずに、ボディそのものが応力を受け持つように計算されているもので、「応力外皮構造」とも呼ばれています。よく引き合いに出されるのは卵の殻で、薄い殻自体は強度は高くはないのですが、殻全体で受けた力を分散しているので強度が高くなる、という論法です。

 ちなみに、モノコック(monocoque)というのはギリシャ語で「ひとつの」という意味を持つ接頭語の「mono」と、フランス語で「二枚貝の貝殻」という意味の「coque」を組み合わせた合成語です。もともと航空機の新技術として登場し、乗用車としては1922年に登場したランチア・ラムダで初めて採用されていて、必要な剛性を確保しながらもボディを軽量に仕上げられる、というのが最大の特徴(特長)となっています。
 

 ラダーフレームからモノコックフレームに移行する際、鋼管スペースフレーム/チューブラー・フレームが多用された時代もありました。これは細いパイプを何本も組み合わせて構成するフレームで、ラダーフレームよりも軽く仕上げることができ、また部分補修も可能でしたが生産性に問題があり、パネルをプレスで成形して溶接で組み立てるモノコックにとってかわられました。ただし、大量生産には不向きでしたが、少数生産されるレーシングカーなどでは、カーボンファイバーなどの新素材が登場するまでは多く使われていました。

 

クロカン4駆でラダーフレームが多用される理由は

 軽量で剛性も確保できる、とクルマにとっては最適なモノコックフレームですが、本格的なオフロード走行を得意種目とするクロスカントリー4輪駆動、いわゆるクロカン4駆ではラダーフレームを使用するのが今でも一般的です。もちろん、それにはちゃんとした理由があります。

 ラダーフレームは、それ自体にエンジンを搭載し、サスペンションも組付けられているためローリングシャシー状態で、ボディがなくても走行できるのが大きな特徴。なので、例えばオフロードを走行中に横転しても、その場から移動することも可能です。もっと正確に言うなら、ラダーフレームのクルマは、モノコックフレームのクルマに比べてその可能性が高い、ということになります。もちろんそれは究極のシチュエーションで、確かにそんなこともあるよね、という程度だと思っています。
 

 それよりもラダーフレームは適度に「しなる」ことが大きなメリットではないでしょうか。モノコックは鉄板で構築した「ハコ」なので、しなっても極わずか。それに対してラダーフレームのしなりは随分大きなものとなっています。掲載した写真のなかで右前輪と左の後輪を切り株に乗り上げた状態のラダーフレームに注目してほしいのですが、サスペンションのストロークに加えてラダーフレームがしなることで、4輪がちゃんと路面に接地していることが分かると思います。
 

 これは7年前にドイツ、シュトゥットガルトの西、約100kmのガッゲナウ(Gaggenau)にあるウニモグ博物館で撮影したものですが、流石に唖然としたことを記憶しています。同様に独立懸架ではなくリジッドアクスルの採用が一般的になっているのも、泥濘地や岩場で、スタックした際に抜け出しやすいよう考えられているからに他なりません。独立懸架ではなく左右の車輪が一本のアクスルでつながっているからこそ、車両重量をうまく掛け、結果的に脱出を可能にするという論法です。
 
 

流行の「クロスオーバー」はモノコック構造

 もちろんラダーフレームが万能というわけではありません。モノコックフレームは先に触れたように、充分な剛性を確保しながらも軽量に仕上げることができまし、乗り心地も快適に仕上げられます。

 そこで最近増えてきているSUVの多くが、モノコックフレームを持った一般的なクルマと、クロカン4駆の間にあって、両方のいいとこどりをした「クロスオーバーSUV」と呼ばれるモデルです。砂漠に冒険旅行に出かけるわけじゃないので、フレームだけになっても何とか帰ってこられる、ようなシチュエーションを考える必要もありませんし、普段使いなので優しい乗り心地も欲しい……。そんなリクエストから誕生したのが「クロスオーバーSUV」です。

 適度にシートが高くてドライバーのアイポイントも高いから、ドライブする際に周囲の確認が容易になるというメリットは分かりますが、周囲がすべて「クロスオーバーSUV」となりつつある現在では、このメリットもどうでしょう? 個人的には無用にクルマを肥大化させ、貴重なエネルギーの浪費に繋がっているような気がして、どうしても食指を動かす気になりません。もちろんそれを望む人の趣向を否定するものではありませんが。
 


TEXT:原田 了
提供:Auto Messe Web

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