「乗り心地悪し」の酷評は「公道を走るF1」なんだから当然! フェラーリF50誕生の真実

1995年にフェラーリ創立50周年を記念したモデル「F50」がデビューした。開発コンセプトは「公道を走るF1」だったが、途中からエアコンが装着されたり、屋根が開いたり…とブレたものになった。また、エンジンがフレームに直付けだったため振動もすごかった。

創設50周年を記念して登場したF50

 フェラーリ創設40周年を記念して、エンツォ・フェラーリ御大が最後に手掛けたフェラーリF40は、“そのままレースに出られる市販車”として開発されました。開発を担当したゲルハルド・ベルガーをして「雨の日には絶対に乗りたくない」と言わしめたエピソードは、以前にも紹介しました。

 同社の創業50周年記念モデル、F50はさらに過激に“公道を走るF1!”を標榜して誕生しました。今や5億円の値もつく一方で、じつは乗心地が悪かった、とのインプレッションも聞かれるフェラーリF50を振り返ることにしましょう。

 

“そのままレースに出られる市販車”から“公道を走るF1!”へ

 モータースポーツにおけるホモロゲーション(車両公認)取得のためのベースモデル「288GTO」の後継は、フェラーリの創業40周年記念車であるF40とされ、その後継モデルが50周年記念車のF50でした。
 


 288GTOは実際に、モータースポーツを戦うために企画開発されたモデルでしたが、F40は“そのままレースに出られる市販車”が開発のコンセプトでした。それを受けて約10年後に登場したF50の開発コンセプトはさらに過激となり“公道を走るF1!”と謳われていました。
 


「リヤに記念のバッチが付いているんだ!」と自慢するような御同輩の周年記念モデルとは、ちょっとばかりレベルの違いを感じさせられます。ですが、F50の後継モデルは、御大の名を名乗るエンツォ・フェラーリ、さらにラ・フェラーリと続くフェラーリのスペチアーレ(特別仕様車)の流れには、もう開いた口がふさがりません。
 


 まあ、そんな与太話はさておき。“そのままレースに出られる市販車”を開発コンセプトにおいたF40は、鋼管スペースフレームにカーボンパネルなど強度を持ちながら、圧倒的な軽さを誇る新素材などを多用していました。組み上げられたシャーシに、グループCレースで活躍したランチアLC2から転用発展させたV8ツインターボを搭載しています。当時最新のレーシングテクノロジーがあちこちに窺えるハイスペックな1台に仕上げられました。さらに結果的にも、エンツォ・フェラーリ御大が最後に手掛けたクルマとして大きな勲章を得ることになりました。
 


 そんなF40の後継モデルとなるからには、F50にも、最新のテクノロジーに加えて“大義名分”が必要になってきます。そこでモータースポーツにおける最高峰で、フェラーリ自身の存在理由ともされているF1を引き合いに出して“公道を走るF1”が開発コンセプトに決定しました。

 そしてエンツォの息子でエンツォ亡き後はフェラーリの副会長に就いていたピエロ・ラルディ・フェラーリのアイデアにより、F1のエンジンを搭載したロードカー、というイメージができあがりました。具体的にはレーシングカーのコンストラクターとして多くの商品を世界中に販売してきた実績を持ち、またトップのジャン・パオロ・ダラーラのランボルギーニ・ミウラを手始めに数々の(ロードゴーイングの)名車を手掛けてきた経歴から、ダラーラ・アウトモビリにカーボンコンポジット製モノコックの製作を依頼。
 


 そのカーボンコンポジットのモノコックに、1992年シーズンのF1世界選手権を戦ったF92Aに搭載されていた自然吸気3.5L65度V12ツインカム(4カムシャフト)60バルブの、ティーポ040(E1 A-92)をベースに4.7Lにまで排気量を拡大したティーポ040改を搭載。
 


 トランスミッションはF1のF92Aの7速セミATではなく、ハイパフォーマンスのロードゴーイングでは一般的な6速のマニュアルトランスミッションに変更されていました。サスペンションはF92Aに範をとった、モダンなレーシングカーでは一般的なプッシュロッドとベルクランクを使用したインボード式ダブルウィッシュボーンとなっています。

 

公道を走るF1という開発コンセプトがぶれることに……

 フェラーリ副会長のピエロ・ラルディ・フェラーリの発案によりF1のエンジンを搭載したロードカーとして開発が進んだF50。ですが、当時会長職に就き、フェラーリF1チームの統率もエンツォ御大から引き継いでいたルカ・ディ・モンテゼーモロが、フェラーリは普段使いもできなくてはならないとの信念から、カーボン・コンポジットのモノコックながら立派な内装が施されていました。当然のようにエアコンも装着されることに。
 


 ストイックなクラブマンレーサーならともかく、フェラーリのロードゴーイングならエアコンは当然でした。もう遥か昔のことになりましたが、快適性の欠如をランボルギーニに突かれた事実もあり、フェラーリのかじ取りを任されたモンテゼーモロ会長としては当然の指摘だったのです。

 とはいえ当初の開発コンセプトである“公道を走るF1”からは少しぶれてしまったように感じられます。モンテゼーモロ会長やフェラーリ副会長から直接相談を受けた訳ではないので(当たり前か!)正確なところは分かりませんが、エンツォ御大が統率していたころのような一枚岩ではなかったのかもしれませんね。それぞれの主張、とくに会長の、フェラーリは普段使いもできなくてはならないとの信念は、充分納得できるだけに一ファンとしては残念な思いがありました。
 
 

 

振動が酷いとの謂れなき不評

 さらに、F50にとっては不幸なことに、振動が酷いとの不評が少なくなかったようです。考えてみればそれは当然で、カーボンコンポジットのモノコックにエンジンをストレスマウント(エンジンもフレームの構造体の一部と考えて、フレーム本体に直接マウントする手法)しているから、エンジンの振動はそのまま車内に伝わってくるのは当然です。
 


 しかもフェラーリが至高としているV12とは異なり、V10ユニットは基本的なところで振動が大きくなっているから、V12や直6に比べて振動面では不利は否定できません。また細かいところでサスペンションの構成がどうなっているのかが分からないので一般論として判断するしかないのですが、サスペンションコンプライアンスが足りないのではなかったかとも思われます。
 


 サスペンションコンプライアンスとは言ってみれば“遊び”で、例えばレーシングカーなどはほぼ0に近くなっていますがロードゴーイングカーでは少し大きくなっています。これが足りないとゴツゴツするな、という評価となるし、多すぎるとグニャグニャする、という評価になります。

 そこはクルマのコンセプトに合わせて設定するのですが、まぁカーボンコンポジットのモノコックにエンジンをストレスマウントしていれば、基本的に乗心地は固くなるのは否定できないところです。それなのに振動が酷い、乗心地が悪いというのはF50にとっては謂れなき不評と言うしかありません。まぁ、フェラーリに対するユーザーの、要求レベルが高いということなのかもしれませんね。

Text:原田了
提供:Auto Messe Web

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