レーシングドライバーに必要なのは身体能力の高さだけではない


 マシンを使用してタイムや順位を競うモータースポーツでは、ほかのスポーツ以上に道具である“マシン”に注目が集まりがちだが、あくまでもモータースポーツはマシンを使ったヒューマンスポーツだ。それゆえに、どんなに優れたマシンを持っていたとしても必ず競技で勝てるわけではなく、ドライビングテクニックやフィジカル、メンタルなどドライバーのパフォーマンスがリザルトを左右する。

 つまり、モータースポーツを戦うドライバーもアスリートであり、野球やサッカー、陸上競技など他のジャンルと同様にスポーツ選手といえるのだが、果たしてレーシングドライバーにはどのような素質が求められるのだろうか?

 というわけで、2021年のスーパーGTのGT500クラスで活躍したトップドライバーたちに直撃してみると、なかなか興味深い答えが返ってきた。

 



「ほかの競技と違ってモータースポーツは練習があまりできませんよね。極端に少ない練習時間のなか、本番では100%の力を発揮しなければならない。そういった意味では“読み”が重要になってくると思います。運も影響してきますが、少ない情報やチームメイトのコメントから想像して“いま、クルマはこういう状況なんじゃないか”とか、朝の練習走行のフィーリングから“午後の路面はこうなっていると思うから、こうしたほうがいいんじゃないか”とかを予想する。その結果はコーナーに飛び込んだときにわかるんですけど、やはり、読みのうまさがドライバーには重要になってくると思います」。

 そう語るのが、TGR TEAM SARDで39号車「DENSO KOBEKCO SARD GR Supra」のステアリングを握る中山雄一選手だ。

 



 気になるフィジカル面については、「ステップアップするにしたがって、どんどんスピードが速くなっていくので、自分をシートの真ん中に支えていくことが大変になってきます。というのも、クルマが数ミリしか動いていないのに、自分が数センチも動くと、反応が分からなくなってしまいますよね。そうならないためにも体幹が強くないといけない」とのこと。

 その一方で、「そうはいっても、意外と脱力していてもドライビングはできるんですよね。ブレーキもそこまで重いわけではないし、ずっとマックスの負荷がかかった状態でドライビングするわけでもない。心拍数でいえば160〜180bpmぐらいの間ぐらいで、1時間から1時間20分の間、コンスタントにパフォーマンスを発揮しなければならないので持久的な部分のほうが必要かもしれません」と語る。

 



 実際に中山選手は「僕は背が高くて、体重が重いので筋肉はつけられない。有酸素系のトレーニングを主にやっていますが、平地を走っていると飽きてくるので山に登ったりしています」とのことで、トップドライバーとして独自のトレーニングを実施しているのである。

 

レーサーの平衡感覚と動体視力は一級品! そのワケは?


 一方、TGR TEAM ZENT CERUMOで38号車「ZENT CERUMO GR Supra」のステアリングを握る石浦宏明選手にレーシングドライバーに必要な資質を尋ねたところ、次のように興味深い話をしてくれた。

 



「レーシングドライバーは三半規管が優れているのでは……という企画があって病院でテストをしたんですけど、とくに飛び抜けているわけではありませんでした。でも、トヨタのドライバー育成プログラム、TDPで若い頃から日体大とかで体力測定をやってきたんですけど、ひとつだけ飛び抜けていた数値が平衡感覚。たとえば片足で目を閉じて立っていたり、バランスボールの上で立ったりするテストなんですけど、測定にきたトヨタのドライバーはみんな飛び抜けた数値になっていた。とくに平衡感覚を鍛えているわけではないんですけどね。レーシングカーは大小の違いはあるけど、基本的には常に滑りながら走っているので、走っているうちに自然とバランスをとることが身についていたんでしょうね」。

 



 続けて石浦選手は「あと動体視力も、レーシングドライバーの多くがカートの時から自然と鍛えられていたんでしょうね。測定すると縦方向の数値は平均並みなんですけど、横方向の数値は高い傾向にある。たぶん、パイロットとかは縦方向も使うと思うんですけど、レーシングドライバーは横方向だけ使っているんですよね」と語る。

 



 このようにレーシングドライバーは平衡感覚と横方向の動体視力が発達しており、ある意味、この二つもドライバーに必要な資質といえるが、気になるフィジカルトレーニングについて石浦選手は「やっぱり体幹の強さが必要になってきます。とくにフォーミュラカーだと、すごいGがかかるんですけど、自分の体を支えておかないと正確なドライビングができない。ハンドルにしがみ付いて支えようとすると疲れて乗れないので、体幹を強くするために背筋を鍛えておかないといけない」と語る。

 ちなみに石浦選手は「背筋は生まれ持ったものがあるらしく、背筋が弱い人は努力して強くしている人もいるようですが、僕は鍛えなくても最初から背筋が強かった」とのことだ。

 以上、中山選手、石浦選手に分析してもらったが、筆者が知る限り、首が太いこともレーシングドライバーの特徴のひとつだ。知人のスタイリストも「レーシングドライバーは首が太いので衣装合わせが大変」と語っていたが、ただでさえ、身体のなかで重たい部位のひとつである頭部に、ヘルメットを被っていることから、それを激しいGのなかで支えるために頸部が発達するのだろう。

 このように、レーシングドライバーはアスリートであり、他のスポーツとはまた違う資質が必要となってくる。そのため、フィジカルにおいても独自のトレーニングが求められているのである。

Text:廣本 泉

提供・WEB CARTOP

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